なぜ日本軍は敗れるのか敗因21ヶ条
山本七平 角川
まずタイトルに注目して欲しい。「なぜ日本軍は敗れたのか」ではなく「なぜ日本軍は敗れるのか」である。一見小さな相違だが、これこそが本書の価値を示している。筆者は言う。戦後の人々は戦前と全く同じような思考図式の中にはまり込んでいる、と。わかりやすくいえば、戦前「非国民」という言葉は戦後「平和の敵」という言葉に置き換わっただけだと・・・。本書で示されている敗因21ヶ条をここで列挙することはしない。しかし全ての言葉が当時の、否、現在における日本人の弱点を表しているのだと。筆者の掲げる21ヶ条を読んで、ナルホド、と万人が納得する言葉もある。「物量・物資・資源で問題にならないぐらい劣っていた」「電波兵器の劣等」「陸海軍の不協力」ふむふむ、尤もだ。しかし例えば「克己心の欠如」「個人として修養していない」「精神的に弱かった」「精兵がいない」と書けば、旧軍人あたりは反発してくるかもしれない。さらに「思想の不徹底」「日本文化がない」「生物的常識の欠如」「バアーシー海峡の損害」と書けば、あの戦争にそこそこ詳しい我々でさえ、「それが何で敗因なの?」と首を傾げるかもしれない。なぜこれらが敗因なのかは本書を読んで是非確かめて頂きたい。
「竹槍でB-29を落とす」と言えば、旧軍人たちでさえ笑うだろう。しかしそんな職業軍人たちが戦後になってもなお「戦艦同士で艦隊決戦をやれば戦争に勝てた」と言っているのは、「竹槍でB-29」と発想の根本部分で同質なのである。そのことにすら気づかず、気づかない人たちが戦争を指揮していた。それを冷ややかな目で見ていた当時少尉であった山本七平氏。階級の高い人物が階級相応の教養、知識、人格、腕力を持っていたら、軍事組織は堅牢であったろうし、そうではなかった日本軍は崩壊するしかなかった。確かに本書の筆者よりも階級が遥かに上だった旧軍人達が戦争について記した著作の多くが極めて浅薄な内容(特に人間観察という点において)であるのを見た時、結局日本軍は敗れるべくして敗れたのだと思わざるを得ない。
日本軍という軍事組織だけではなく、日本社会の問題点を鋭く抉った本書は、万人にお奨めできる名著である。
お奨め度★★★★★
コメント