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Elusive Victory(以下、本作)は、米GMT社が2009年に発売したシミュレーションゲームだ。テーマは1967~73年にかけて戦われた中東戦争の航空戦である。1ユニットは1~4機の航空機(1個小隊)を表し、1Turnは実際の1分、1ヘクスは2.5海里(約4.5km)を表している。
用意されたシナリオは計22本で、攻撃編隊の編成、攻撃計画の立案、防空部隊の配置から始まり、攻撃の実施、迎撃機とMIGCAPとの戦い、防空制圧部隊と防空部隊の戦い、攻撃後の偵察等、一連の航空攻撃の流れを再現する。シナリオの規模にもよるが、大規模なシナリオになると両軍合わせて100機以上の機体が飛び回ることになる。
ジェット機時代、特に1960年代以降の航空戦は、地対空ミサイルの発展によって従来とは全く異なる様相を見せることになった。すなわち、これまでは攻撃側にとっての主たる脅威は敵戦闘機のみ(対空砲火の脅威は「嫌がらせ」程度のもの)であったものが、地対空ミサイルに代表される統合防空システムが攻撃側に対する主要な脅威対象として浮上してきたのである。統合防空システムに対抗するため、攻撃側もこれまでの「戦爆連合」すなわち護衛戦闘機と爆撃機のみによって編成されていた攻撃隊が、対空制圧(SEAD)、武装護衛、スタンドオフジャミング、エスコートジャミング等の様々な任務を帯びた航空機の集合体に変化した。それに伴って攻撃自体も複雑化し、それに対する対抗手段も複雑化してきている。
このように複雑化した航空戦を再現するため、本作は様々な局面を再現するルールが含まれている。元々は同じGMT社が出版しているベトナム戦争航空戦ゲームDown Townと同じシステムで、戦闘機同士の空中戦はもちろん、視認距離外ミサイル(スパロー等)によるミサイル戦、対空火器による射撃、地対空ミサイル、爆撃、機銃掃射、精密誘導兵器、対レーダーミサイル、電子妨害、戦果判定、パイロットの技量等、様々な要素が含まれている。

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今回、本作をプレイするにあたり、折角だから大規模シナリオをプレイしようということになった。そこで選択したのはEV18 Holding the Line。1973年の第4次中東戦争における一局面を描いたシナリオだ。1973年10月11-12日、スエズ運河を渡河してきたエジプト軍に対してIAF(イスラエル空軍)が実施した阻止攻撃と、EAF(エジプト空軍)が実施した地上支援攻撃を再現する。
下名はIAFを担当した。

セットアップ

まずは防空システムを配置する。地対空ミサイルはHAWK中隊が5個。ほぼ固定セットアップなので選択肢は少ない。問題はAAA(対空火器)である。1個所に集中して重対空砲とするか、分散配置で軽対空砲をばら撒くか。熟考の結果後者を選択した。重対空砲にした場合、敵の制圧爆撃で1個所を制圧されてしまうと、対空砲火が無効化されてしまうからだ。しかし後で考えると、EAFはIAFに比べて防空制圧部隊が弱体なので、重対空砲にしても良かったかもしれない。いずれにしても今回のプレイでは、イスラエル側の地上防空部隊がその威力を発揮することはなかった。

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続いて攻撃隊の編成と攻撃目標の選定を行う。攻撃隊はシナリオで大枠が決まっており、細部はダイスで決定するシステムだ。そこにプレイヤーによる選択の余地はない。ダイスによる判定の結果、IAFの攻撃部隊は、以下の通りとなった。合計62機の大編隊である。

 MIGCAP:F-4Eファントム 4機編隊×5個=20機
 武装護衛(Armed Escort):F-4Eファントム 2機編隊×2個=4機
 防空制圧(SEAD):F-4Eファントム 2機編隊×1個、A-4E/Nスカイホーク 2機編隊×2個 合計6機
 攻撃本隊:F-4Eファントム 4機編隊x2個、A-4Nスカイホーク 4機編隊×3個、シュペル・ミステール 4機編隊×1個 合計24機
 写真偵察:F-4Eファントム 2機編隊×1個、ミラージュ3R 2機編隊×2個 合計6機
 スタンドオフジャマー:電子戦機2機

設定された攻撃目標は2個所。前線のエジプト軍歩兵部隊及び後方の航空基地だ。どちらを潰してもVPが得られる。IAF指揮官(つまり私)は、損害軽減のため攻撃目標を前線のエジプト軍歩兵に絞ることにした。

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1~6Turn

最初に盤上に侵入するのは、対空ミサイル制圧を主任務とするSEAD及びArmed Escortの編隊である。前者はF-4とA-4の混成編隊計6機で、各機はシュライク対レーダーミサイル各2発を搭載する。後者はクラスター爆弾を満載したF-4Eファントム計4機である。またMIGCAPの編隊も順番に盤上に展開し、主に攻撃編隊南翼(スエズ湾方面)を守る。その編成はF-4Eファントム計20機。各機は20mmバルカン砲で武装し、AIM-9Dサイドワインダー空対空ミサイル4発、AIM-7E-2スパロー空対空ミサイル4発で武装している。

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序盤いきなり不幸なイベントがIAFを襲う。砂漠の砂嵐。低空~中空域に砂嵐が発生し、視界を遮ったのだ。新型テレビ誘導爆弾ウォールアイによる中高度からの爆撃を企図していたIAFにとっては、出鼻を挫かれた形となった。
SEAD任務のF-4Eファントム2機がアフターバーナーを焚いて先行する。その目的は敵対空部隊を活性化させるため、つまり囮だ。まさに「アイアンハンド」と呼ばれる男たちに相応しい任務である。

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果せるかな、エジプト軍対空ミサイル部隊が次々とレーダーを作動状態にした。最初のSAM(SA-2ガイドライン)が発射され、先行のファントムに迫ったが、そのミサイルは明後日の方向に飛び去った。さらに攻撃目標となるエジプト軍歩兵部隊の前程に強力な対空陣地の展開しているのが判明した。

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SEAD任務のF-4EファントムとA-4E/Nスカイホークがレーダーを作動させたSAM陣地に向けて数発のシュライク対レーダーミサイルを発射。これを制圧する。さらにArmed EscortのF-4Eファントム4機が低空へ急降下。激しい対空砲火を物ともせずにエジプト軍重対空陣地に対してクラスター爆弾を叩き込んだ。対空陣地は制圧され(3Hit)、さらに同じ地点に展開していた新型のZSU-23-4自走対空車両の1個小隊も爆撃を受けて撃破された。
Armed Escort対はさらに反転。今度は機銃掃射でエジプト軍陣地に襲いかかる。ECMを無効化する恐るべき新型SA-6ゲインフル地対空ミサイルの2個大隊を発見した彼らは、果敢にそれに挑んだ。1個大隊のゲインフルは完全に撃破、もう1個大隊も損傷を受けて戦闘能力を損失する。

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上空では迎撃に上がってきたエジプト空軍(EAF)MiG-21フィッシュベッドとMIGCAPのIAF F-4Eファントムとが交戦状態に入った。ファントム隊はMiG-21の正面からAIM-7E-2スパローによるBVR(視認距離外)攻撃を試みるが、ミサイルは目標に命中せず、最初の一撃は空振りに終わった。

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