Elusive Victory(以下、本作)は、米GMT社が2009年に発売したシミュレーションゲームだ。テーマは1967~73年にかけて戦われた中東戦争の航空戦である。1ユニットは1~4機の航空機(1個小隊)を表し、1Turnは実際の1分、1ヘクスは2.5海里(約4.5km)を表している。
今回選択したシナリオは、EV18 Holding the Line。1973年の第4次中東戦争における一局面を描いたシナリオだ。1973年10月11-12日、スエズ運河を渡河してきたエジプト軍に対してIAF(イスラエル空軍)が実施した阻止攻撃と、EAF(エジプト空軍)が実施した地上支援攻撃を再現する。
下名はIAFを担当した。
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7~9Turn
IAFの爆撃本隊が続々と目標に近づいていく。その編成は、F-4Eファントム8機、A-4Nスカイホーク12機、そしてやや旧式のシュペル・ミステールB 4機の計24機だ。上空ではミグとファントムの激しいドッグファイト。果敢にも接近戦を挑んだファントムは、AIM-9Dサイドワインダーによって2機のミグを撃墜し、2機に損傷を与えた(うち1機は帰還途中に燃料不足で墜落)。ファントム隊は無傷である。しかし空戦に参加したファントム2個中隊(8機)は、空戦のために燃料不足をきたしたのか、戦意を失って後退していく。この根性なしが・・・。本作では、ドッグファイトに参加した編隊は、その勝敗に関わらず士気チェックを強要され、かなり高い確率(最良の条件でも70%以上)で混乱状態になる。混乱状態になった編隊は、戦意が低下する他、回復するまでは自発的な戦闘ができなくなる。その回復がまた面倒で、予め設定された集結ポイント以外では毎Turn1%以下の確率でしか回復しない。そういった意味では、士気チェックが免除されているBVR攻撃はIAFにとっては結構有難い(命中率はそれほど高くはないが・・・)。
IAF攻撃隊本隊は続々と目標上空に進入する。最初に進入してきたのは、ウォールアイTV誘導爆弾を搭載したF-4Eファントム8機編隊だ。最初に精密誘導兵器を使用する意味は、目標が爆炎や煙に包まれると、精密誘導兵器の命中率が低下するためだ。激しい対空砲火がIAF編隊を迎え撃つが、先のArmed Escort編隊の爆撃によって重対空陣地が制圧されていたため、IAF編隊は実害を受けていない。ファントム隊に続き、通常爆弾で武装したA-4Nスカイホーク、シュペル・ミステールが目標上空に進入する。次々と投下される爆弾。目標は激しい爆炎に包まれて目標となるエジプト軍歩兵部隊は壊滅したかに見えたが、本当の戦果は偵察隊による写真撮影によって確認するまではわからない。
10~12Turn
IAFの攻撃隊本隊による攻撃が終了した頃、隠れていたSA-6ゲインフルの大隊2個が活動を開始した。MIGCAPのファントムがロックオンを示す警報音に包まれる。ファントムはECMを作動させてロックオンを外しにかかるが、新型ゲインフルに対してECMは通用しない。4発のミサイルが発射され、ファントムに迫る。そのうちの1発は危険なほどファントムに接近したが、ミサイル側の照準が甘かったため、僅かな差でミサイルは逸れていった。地上から発射された噴煙を見つけたSEAD任務のファントム2機が急降下する。そのファントムを狙う別のゲインフル。1発がファントムの至近距離で近接信管を作動させた。そのファントムは軽微な損傷を受けて離脱していく。残る1機はゲインフルの大隊を捕捉した。機銃掃射がゲインフル大隊を包む。損傷を受けた大隊は、戦闘能力を失う。
もう1つのゲインフル大隊にはA-4Nスカイホーク2機が超低空から接近。対空砲火を物ともせず30mm機関砲で地上にあるミサイル発射大隊を襲う。ミサイル大隊は完全に撃破されて戦闘能力を失った。
戦場の南方、スエズ湾方面からEAFの攻撃編隊が迫ってきた。6個編隊20機以上の戦爆連合に対し、IAFのファントム4機が果敢に挑んでいく。EAF編隊の正面から接近したファントムは、目標となるMiG-21をレーダーロックオンした。距離約20kmで4発のスパローミサイルが発射された。1発が1機のMiG-21に直撃して同機を撃墜。もう1発が別のミグの至近距離で炸裂し、損傷を与えていた。
感想
結局12Turnまでプレイした所で時間切れとなり、お開きとなった。プレイ時間はセットアップも含めて約10時間。ゲーム内での12分間をプレイするために、実時間約10時間を費やしたことになる。空戦ゲームではよくあることだが、それにしても空戦ゲームは時間がかかるものである。今回のプレイで感じたのは、一番強く感じたのは、(やや残念なことではあるが)煩雑さである。まずスタックが大きくなるという問題。航空機ユニットに高度を示すマーカーの他、SAMのレーダーで追跡された場合には追跡マーカー、混乱した場合には混乱マーカー等、1つの航空機ユニットの上に様々なマーカーが載せられる。従ってスタックが必然的に大きくなり、スタックが崩れてしまった場合の混乱は筆舌に尽くし難い。さらに航空機ユニットが30度刻みで方向を持っているので、スタックを雑に扱うととんでもないことになる。個々のヘクス径が小さい(標準サイズ)ことも混乱に拍車をかけている。
さらに言えば、攻撃計画を記入する記入シートが地図の南北で2分されていて扱いにくい。さらには攻撃編隊の状況を占めるログシートも大規模シナリオなら1枚に収まりきらない。そのあたりについても改善を期待したいところだ。
そんなこんなで本作は決して万人向けの作品ではない。それどころか多くの人にとって「面倒なだけで面白くないゲーム」という評価を受ける恐れすらある作品とも思える。しかし、その一方で本作には他の作品にはない魅力があるのも事実だ。複雑化した現代航空戦。その全貌を余すことなく描き切り、しかも何とかプレイ可能な範囲で収めた本作は、現代航空戦に限りない興味を持つ者にとっては他のゲームでは決して味わうことのできない知的好奇心を満たしてくれる作品であることは間違いない。先に上げた様々な欠点も、独自の工夫(例えば記録シートを自作する、混乱マーカーをカウンターに乗せるのを止める等)をすることである程度は緩和できる。
現代航空戦に左程興味のない人々が、仮に本作を「面倒なだけで何が面白いのかわからないゲーム」と評したとして、それ自体は決して間違いではない。その一方で現代航空戦に興味を抱くものが、本作をして「唯一無二の傑作」と評することもありえる。こう考えると、ウォーゲーム評論というものは、優れて主観的なものであると思わずにはいられない。
なお、ゲーム終了後の食事会の際、本作のシステムを使った「ラバウル航空戦」を見てみたいという意見があった。筆者も全く同意見である。
おまけ:懺悔集
ルール間違いの申告です。まずスタック制限を完全に無視していました。すいません。1ヘクスには1ユニットだけしか入れなかったのですね。すまんです。もう1点。爆撃で同時に2目標を攻撃したのはルール違反でした。すいません。1度の攻撃で攻撃目標は1目標のみでした。
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