「ガ島沖砲雷戦」(以下、本作)は、Game Journal#77の付録ゲームで、テーマはガ島近海における日米両軍の水上戦闘である。1Hexは実際の1kmに相当し、1Turnは約5分、1ユニットは1隻の戦闘艦艇を表す。各ユニットには駆逐艦も含めて全て個艦名が記載されている。
本作は、単一の水上戦ゲームとして楽しむこともできるが、同じGJ#77に付録されている「ガダルカナル・ギャンビット」と連結し、陸海統合ゲームとして楽しむこともできる。この場合、ガダルカナル近海における夜戦の結果に応じてガダルカナル島で戦っている両軍将兵の補給状態が変化するようになっている。
今回、お試しとして本作の海戦シナリオをプレイしてみた。選択したのはシナリオ1「第1次ソロモン海戦」。史実では日本軍の奇襲攻撃が成功して連合軍の艦隊が大損害を被った戦いである。
1Turn
日本艦隊と連合軍南方部隊が交戦する。「鳥海」「青葉」「衣笠」の砲撃で豪重巡「キャンベラ」が損傷したものの、撃沈するには至らず。「加古」は左舷5km離れた米駆逐艦「ジャビース」を砲撃して、これを撃沈した。2Turn
日本艦隊は左120度回頭し、連合軍の北方部隊と南方部隊の間に布陣する。それに対して連合軍南方部隊は右に120度回頭し、日本艦隊とすれ違う形とする。日本艦隊の砲撃。重巡「古鷹」が左舷2kmに迫った米駆逐艦「バックレイ」を砲撃。これを撃沈した。しかし立ち直った連合軍南方部隊も反撃開始。米駆逐艦「パターソン」の雷撃を食らった重巡「青葉」が大破。また3番艦「衣笠」は豪重巡「キャンベラ」の砲撃を受けて轟沈した。防御力が米英艦に比べてやや弱い日本重巡は、敵の砲撃に対して轟沈しやすいという弱点を持っていたのだ。3Turn
米軍は北方部隊も立ち直った。日本艦隊の砲撃により米重巡「ヴィンセンス」が損傷し、雷撃を仕掛けた駆逐艦「ヘルム」が日本艦隊の十字砲火を浴びて轟沈する。対する連合軍。重巡4隻と駆逐艦1隻で重巡「衣笠」に十字砲火を浴びせ、駆逐艦「パターソン」が見事に6ゾロを出して「衣笠」を轟沈せしめた。4Turn
主導権を握った日本艦隊は敢えて後攻を取った。砲雷撃は不利になるが、移動は後になるので有利になる。しかし結果的にはこれが裏目に出た。米艦隊の先制砲撃を受けて駆逐艦「夕凪」、軽巡「夕張」が相次いで轟沈。さらに「天龍」「古鷹」も次々と砲火の犠牲となった。日本艦隊で生き残ったのは、旗艦「鳥海」と雷撃を受けて大破した「青葉」のみ。この時点で日本軍の勝利はほぼなくなったのでゲーム終了とした。連合軍の損害は、駆逐艦3隻が沈没した他、重巡2隻(「キャンベラ」「ヴィンセンス」)が中破したのみ。どちらが勝者なのかは誰の目にも明らかだった。
感想
とにかく「プレイしやすく」を念頭にデザインされている。プロット不要(速度は毎Turn3ヘクス固定)、損傷艦でも速度低下はなし。極めつけは「何発被弾しても轟沈しない限り沈まない」砲雷撃システム。私のような「コテコテ」の海戦ゲーマーにはとても思いつかないようなシステムを採用している。まず砲撃システムから説明しよう。砲撃システムは2d6で解決する。各艦の砲撃力は、砲の口径を表す「貫通力」と砲の数を表す「火力」で評価されている。火力は砲撃判定表で使用するコラムを表し、貫通力はDRMを表す。ここで注意すべき点は、火力に関係なく出目が13以上なら目標を撃沈でき、12以下なら撃沈はない。従って砲の数の大小と撃沈の確率は原則的に無関係である。
では砲の数は何の意味があるのか。それは目標に「損傷」マーカーを与える可能性が変化する。先にも書いた通り「損傷」マーカーをいくつ載せても艦は沈まない。しかし「損傷」マーカーの数が砲撃判定表のDRMになる。従って損傷の累積でDRMを増やすことで撃沈の可能性を高めることができる。また「損傷」マーカーが載せられると砲撃力、雷撃力が減少する仕組みになっているので、損傷の累積で相手の弱体化が期待できる。
移動に関するルールもユニークである。各艦の移動力は一律"3"で固定化されており、全移動力を使い切る必要がある。また友軍艦とスタックしたら、どちらかが沈没するという過激なルールになっている。さらに1Turnに実施できる旋回は各艦1回のみとなっている。これらのルールによって指揮系統に関する複雑なルールがなしでも指揮統制が「それらしく」再現されている。
雷撃戦については、艦艇は1Turnに砲撃か雷撃かどちらかしか実施できないので、雷撃実施の判断は慎重にならざるを得ない。また本作では、雷撃(砲撃もだが・・・)の際、距離による命中率の増減がないのだが、その代わり雷撃を実施する直前にダイスを1個ふり、その出目の距離が雷撃の最大距離になる。また雷撃実施の宣言は距離判定の前に行わなければならない。従って目標までの距離が遠い状態で雷撃実施を宣言すると、雷撃距離不足で攻撃が失敗する可能性が高くなる。このことによって遠距離雷撃時における命中率の低下を間接的に表現している。なお日本軍の酸素魚雷は、最大距離が2ヘクス多くなる。
プレイした感覚だが、とにかく「軽い」。プロット不要というのが大きいが、砲雷撃システムも2d6一振りで解決できる点がスマートである。他の水上戦ゲームでは、多くの場合、命中判定、損害判定の2段階判定だが、本作は1段階判定なのでプレイの軽さは劇的である。細かい点を見れば不自然に思える点もあるが、全体としてみた場合、良くまとまっている。高速艦と低速艦の違いや損傷状態での速度低下が再現されていない等、不自然な点もない訳ではないが、簡単なルールの追加で対応できる話である。今回それらのルールを外した意味は、ソロモン海戦では不要と判断したためだろう。
結論として本作はガダルカナル近海における水上戦闘をスマートに再現した佳作と言えよう。
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