210106_幻の東部戦線

幻の東部戦線

古峰文三 アルゴノート社

タイトルが一見誤解を生みそうだが、本書は東西冷戦下でのドイツ再軍備について随筆風に記述した著作である。本書はかつてインターネットで公開されていたが、数年前から読めなくなっていた。
内容はとにかく面白い。ドイツ再軍備と言いながらも、そこには当然米ソ両国とドイツ周辺の東西諸国の思惑が複雑に絡み合う。WW2直後から始まる東西冷戦。冷戦というタイトルから我々はそこに本当の危機を読み取り辛いが、東西両陣営が国境を接する東西ドイツでは本物の危機がWW2直後から冷戦終結まで続いていたのである。本書を読めばそのことがよくわかる。
本書を読んで衝撃的なのは、東西両陣営、特に東側の核戦略である。よく「ソ連軍は核兵器を「大きな大砲」としか見ていない」と言われているが、まさにその通り。60年代から80年代まで旧ソ連が描いた戦略は、「開戦劈頭の大規模な核攻撃」で、しかも彼らは西側諸国が「核反撃に躊躇するだろう」とまで予想していたから、彼らの「本気度」がわかろうというものだ。東側の戦略は、大規模な核攻撃で西側の指揮系統を混乱させ、その間隙を突いてライン川突破を図るというもの。彼らは西側の避難民を追い立てながら前進するから、西側は戦術核兵器を撃てないだろう。彼らはそう考えていた。所謂「反核平和運動」もソ連側から見れば「西側に核兵器を使わせないため核兵器に対する罪悪感を植え付ける」ための手段だと考えれば、空恐ろしくなる(反核運動の対象は常に西側の核兵器であり、共産圏の核兵器はその対象ではない)。
本書を読んで興味深いのは、核兵器の使用を前提としながらも、その中で通常兵器の運用について詳しく書かれていることである。核兵器の存在が通常兵器を無効化するのではなく核攻撃下で如何に通常兵器を運用していくのか。本書の読みどころの1つだと思う。
核兵器の存在が常に念頭にあった冷戦時代だが、冷戦を終わらせる決定的な要因は核兵器ではなく通常兵器であった。西側の優れた通常兵器が冷戦を勝利に導く鍵であったという本書の指摘は的を射ていると思う。
本書を読むと、MMPの「Iron Curtain」等がプレイしたくなる所だ。

お奨め度★★★★


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