「英国海軍」(以下、本作)は、1990年代に発売されていた同人ゲームである。テーマはWW2の海戦で、全世界における海戦を1ユニット=重巡以上の大型艦1隻のスケールで再現する。
本作の基本的となるシステムは、かつての名作ゲームWar at Sea(WaS)及びVictory in the Pacific(VitP)である。実際、カウンターデザインやレーティング、さらにマップデザインやレイアウトはWaS、VitPに酷似している。
今回は本作の中から太平洋戦争シナリオをプレイしてみた。筆者は日本軍を担当する。
前回までの展開は --> こちら
8Turn(1943年前半)
米海軍にエセックス級新鋭空母4隻とインデペンデンス級軽空母5隻が就役してきた。ちょっと早すぎるんじゃないの、と、思えてくるが、まあ仕方がない。新鋭空母群は早速マーシャル諸島方面に来航してきた。これに対して陸攻2個戦隊が反撃を実施。エセックス級空母2隻に命中魚雷を見舞ったが、装甲防御に優れたエセックス級はいずれも命中魚雷に耐えた。空母群の猛反撃を受けて陸攻隊は壊滅。米軍が上陸部隊を伴っていなかったのでマーシャル諸島の日本軍守備隊は無事だったが、周囲の制海権を失った日本軍守備隊の運命は最早風前の灯火だった。このTurn、日本軍はマーシャル諸島の支配を失い、獲得したVPは11VPとなる。対する米軍は12VPを得た。現在の総VPは連合軍3VPである。この時点で戦争の潮目は変わった。
そして
この時点で最早攻勢を続ける能力を喪失した日本軍は負けを認めてゲーム終了となった。なお、シナリオ自体はこの後4Turn続くことになるが、米軍はさらに正規空母11隻、軽空母4隻、新型戦艦5隻その他を受け取ることになる。対する日本軍は各種空母7隻が登場するが、搭乗員の練度不足と艦載機不足のおまけつき。この状況では、最早日本軍プレイヤーは単に連合軍のサンドバックにしかならないだろう。あまり悪口は書きたくないのだが、太平洋シナリオについてはまともなテストプレイしていないとしか思えない。まず勝利条件があまりに非現実的である。ゲーム開始時点で既に日本軍にペナルティがあるので、それを取り戻すだけで精一杯だ。VitPの場合は序盤に日本軍が貯金し、後半に米軍の反攻を貯金で凌ぐという展開で(少なくともゲーム上では)日本軍が勝利する可能性があるのだが、本作の場合はそもそも貯金自体が難しい(借金返済で精一杯)なので、頼るべき貯金がない状態で米海軍の猛反攻を受けることになってしまう。しかもVitPの場合、米軍の総反攻は全8Turnのうち後半の3Turnのみ。従ってゲーム前半から中盤までは日本軍プレイヤーもある程度楽しめるようになっている。しかし本作では何故か米軍の反攻が全8Turn中中盤以降の5Turnと長くなっている。1943年前半にエセックス級空母が大量投入されてくるなんて、日本軍プレイヤーにとっては悪夢以外の何物でもない。まあ史実自体も悪夢といえば悪夢だが、そんな史実と比べても米軍の反攻が強力過ぎる。このままプレイしたら1944年の半ばで連合艦隊は全て海の藻屑と化し、日本本土を含めた太平洋全域は米軍の支配下に落ちるだろう。
という訳で、この時点でゲーム終了とした。ちなみにプレイ時間は途中の休憩時間を除いて5時間強であった。
感想
まずは1990年代というウォーゲームの「氷河期」にあって、これだけの大作を、しかも個人レベルで出版にこぎつけたデザイナーの行動力を称賛したい。現在では個人レベルでウォーゲームやカードゲームを出版する環境がかなり整備されてきて、個人でウォーゲームを出版するための敷居は1990年代当時に比べてかなり下がってきている。実際、筆者も個人レベルでいくつかウォーゲームを出版している。しかし今から30年前、ネット環境も一般ではなく、未だ電話、手紙、そして直接対話が主要な連絡手段の位置を占めていた当時において、これだけの大作を出版するのは容易ではなかっただろう。そういった意味で、以下に述べるいくつかの「欠点」も、当時の状況を考えれば無理なからぬことに思える。
まず気になったのはルールの書き方である。ナンバーシステムを採用していないのでルールの把握が容易ではなく、また曖昧な記述が多くてルールの把握が困難な面が多かった。例えば陣形ルール等は対戦相手共々頭を抱えて、「これ、本当に使うルールなの?」と議論した上、途中でWaS/VitPルールに置き換えてプレイしていた。さらにルールの記載漏れと思われる個所も多く、例えば戦闘中の飛行場の支配変更に伴う基地航空隊の扱いや基地航空隊の撤退方法等は関連ルールを見つけることができず、VitPのルールで代用した。
元々が全世界でのキャンペーンゲームを指向したゲームなので仕方がないかもしれないが、シナリオの内容に曖昧な点が多い。一応、戦闘序列は記載されているものの、オプションユニットが点線で記載されたりして
「このユニット、使って良いの?、ダメなの?」
と、迷うこと再三であった。
シナリオのバランスについては本文中にも触れたが、どうみても日本軍に勝ち目がない。これはひょっとしたらデザイナーの狙いで、
「VPではどうせ勝てないのだから、一か八かハワイ攻略した後の「アメリカ本土決戦」をやりなさい」
ということなのかもしれない。
(個人的には、日本軍のアメリカ本土上陸戦なんてファンタジーとしか思えないのだが・・・)
ということで、今回のプレイではあまり良い印象がなかったが、ひょっとしたらキャンペーンゲームをプレイしてみたら印象が変わるかもしれない。機会があれば、キャンペーンゲームをプレイしてみたいと思っている。なんやかんやでギリシャ海軍やトルコ海軍の艦船が登場するゲーム自体が珍しいのだから。











