もりつちの徒然なるままに

ウォーゲームの話や旅の話、山登り、B級グルメなどの記事を書いていきます。 自作のウォーゲームも取り扱っています。

カテゴリ:読書 > 歴史

240519_アメリカミリシア

暴力とポピュリズムのアメリカ史

中野博文 岩波新書

ミリシア、またの名を民兵。本書はミリシアと呼ばれるアメリカ独特の軍事組織について、その歴史と現状、そしてミリシアが引き起こす弊害について記した著作である。ミリシアは、民兵といっても正規の軍事組織である州兵(National Guard)とは全く別組織であり、本書で扱うミリシアは民間人が政府機関とは無関係に組織した武装組織である。日本とは違って米国では憲法によって民間人の武装が認められており、それがミリシアが成立している根拠であるとしている。
本書のスタートは、2021年度の米議会襲撃事件で、その中心的な役割を果たしたのがミリシアとしている。本書はそこからトランプ批判やミリシア批判と続き、そしてアメリカ独立戦争から始まるミリシアの発展と変遷について触れている。そしてWW2とその後の冷戦時代に続くミリシアについて触れ、最後に21世紀におけるミリシアに戻ってくる。
序盤の過度とも思えるトランプ批判が少し気になる所だが、全般的には中立的で冷静な筆致であり、ミリシアというアメリカ独特の仕組みについて理解を深めることができた。

お奨め度★★★

暴力とポピュリズムのアメリカ史 ミリシアがもたらす分断 (岩波新書)

240318_ローマ人の物語

ローマ人の物語2-ハンニバル戦記

塩野七生 新潮社

ローマ人の物語全体については以前に紹介したと思うが、今回改めて第2巻を読み返してみた。こういう長編は全部を読み通そうとすると「楽しみ」というよりも「作業」に近いものとなってしまい、純粋に読書を楽しむことができない場合がある。その点、今回のように「つまみ食い」してみると、妙な義務感から解放されて純粋に読書を楽しむことができるように思える。
この第2巻はタイトル通り「ハンニバル戦争」と呼ばれる第2次ポエニ戦争がメインである。ポエニ戦争とは、ローマとカルタゴが地中海の覇権をかけて3度に渡って戦った全面戦争である。特に第2次ポエニ戦争は、「ハンニバル戦争」との呼称で分かる通り、カルタゴの生んだ伝説的戦略家であるハンニバルが共和制ローマを存亡の淵まで追いやった戦いでもあった。世界戦史上名高いカンネーの戦いは、第2次ポエニ戦争の最中に起こっている。
今回本書を改めて読んでみた理由は、名作ゲームとして名高い「ハンニバル」をプレイするに際し、当時の歴史状況を確認しておきたかったためである。そして本書はその期待に十二分に答えてくれた。本書は、ハンニバルやスピキオといった両陣営の諸将たちが戦場でどのように振舞ったかについて克明に記載さているが、それだけではない。本書はポエニ戦争を巡る全般的な動きやマケドニア、ギリシアと言った諸外国の動きにも目を向けつつ、ローマが滅亡の淵から蘇りそして遂にカルタゴを滅亡に追い込むまでの過程が立体的に描かれている。日本人にはあまり馴染みのなかったローマ史を日本でメジャーテーマ化した筆者の力量には感嘆せざるを得ない。

お奨め度★★★★

ハンニバル戦記──ローマ人の物語[電子版]II
ハンニバル戦争 (中公文庫)

3
240212_信長戦記

戦況図解-信長戦記

小和田哲男 サンエイ新書


TVなどの出演機会も多い小和田哲男氏監修の信長戦記である。本書の特徴は、織田信長の生涯を主に戦記的な視点から記したということ。つまり戦記以外のエピソードはバッサリ切り捨てている。そういった観点から、例えば議論の多い延暦寺焼打ちや一向宗徒に対する苛烈な弾圧について、軍事的な側面から考察している。
そういった意味において本書は信長の前半生にもかなりのページ数を割いており、尾張統一戦争や斎藤義龍/龍興との美濃攻防戦などでの戦いについて比較的詳細に解説している。
他の点では、地図を多用し、戦況を視覚的に説明している。「戦況図解」というタイトルからして当然なのだが、信長に関する戦いを網羅的に捉えているという点では有難い著作だ。
ページ数の関係上個々の戦いについては概略レベルの説明に留まっているが、そもそも「何が真実だったか?」についてすら曖昧な時代の戦いなので、十分な内容といえる。それよりも織田信長自身の動きをまるでスケジュール表を見るかのように理解できるという点で有益な著作だ・
Amazon Unlimitedなら自由に読むことができるので、お奨めしたい1作である。

お奨め度★★★

戦況図解 信長戦記 サンエイ新書


3

230930_論争関ヶ原

論争関ヶ原合戦

笠谷和比古 新潮選書

関ヶ原の合戦と言えば日本史上でも一二を争うほど有名な戦いだが、何分にも400年以上も前の戦いなので、真相が十分に分かっている訳ではない。戦いの様相は主に文献情報に基づいているが、文献によっては矛盾する記載があり、さらに徳川による勝者バイアスがかかっているので、文献情報を100%鵜呑みにできない。だから次々と新設、珍説が披露されることになる。
本書は、関ヶ原の戦いに関する様々な説を紹介しながら、筆者なりの持論を紹介している。筆者によれば、関ヶ原の戦いは決して一瞬で決着が着いたような戦いではなかったし、小山評定はあったし、徳川本隊による問鉄砲もあったとしている。筆者は関ヶ原の戦いのポイントを「二段階蜂起」にあるとしている。つまり西軍による軍事蹶起は当初、石田三成と大谷吉継の2名による小規模なものであった。しかしその後三成の活動で淀殿や毛利を西軍に巻き込むことに成功。最終的には徳川vs豊臣といった大規模対決につながっていくとのこと。
問題は小山評定で、その時の会津征討軍はまだ三成らの小規模反乱といった情報しかなく、そのために小山評定に参加した豊臣系大名達が「三成討つべし」で一致したのも当然であった。しかしその後三成の工作が奏功し、三奉行による「内府ちかいの条」が発せらるに及び、豊臣vs徳川の様相を呈してきた。これが家康が江戸に戻った時期に相当する。江戸に戻った家康がしばらく江戸から離れなかった理由は、小山評定における前提条件がここにきて大きく変化したことによると筆者は論じている。
筆者の主張が正しいのか、それとも他の論者が主張する説が正しいのか、判断するのは難しいが、こういった論争はタイムマシンが発明されるその時まで続けられることになるだろう。

お奨め度★★★

論争 関ヶ原合戦(新潮選書)
関ヶ原合戦 家康の戦略と幕藩体制 (講談社学術文庫)
新視点 関ヶ原合戦: 天下分け目の戦いの通説を覆す


230810_漫画三国志1

漫画三国志【2】:赤壁の戦いと三国の攻防

飛鳥新社

前作に引き続き、赤壁の攻防から五丈原での諸葛孔明の死までを描く。赤壁での勝利とその後蜀と呉の対決。諸葛孔明と周瑜の戦い。劉備の皇帝即位、関羽、張飛そして劉備の死。諸葛孔明の北伐と司馬懿との対決等が本書の主なテーマとなる。本格的な三国時代となり、諸葛孔明がストーリーの中心になっていく。その一方で曹操や孫権の出番が少ないのは少し寂しい気がするが・・・。
第1巻目と合わせて三国志の流れを端的に理解するには良い著作と思える。

お奨め度★★★


マンガ 三国志Ⅰ 劉備と諸葛孔明
マンガ 三国志Ⅱ 赤壁の戦いと三国の攻防
マンガ 三国志Ⅲ 諸葛孔明亡き後の三国の興亡
マンガ 三国志X 諸葛孔明

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