戦争は女の顔をしていない
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ/三浦みどり訳 岩波現代文庫
本書を読んでこれまであまり意識してこなかった「もうひとつの戦争の姿」に気づかされた。これまで戦争を描いた本や映画では、主に男性兵士が前線で戦う姿が語られてきたが、この本では女性たちの視点から、戦争の現実が淡々と、しかし深く語られている。
銃を持って戦った女性兵士、負傷者の血を拭き続けた看護兵、爆撃の中で通信をつなごうとした通信兵。彼女たちの声は、これまでほとんど記録されることがなかった。それだけに、ひとつひとつの証言が新鮮で、強く心に残った。
印象的だったのは、彼女たちが戦争を語るとき、必ずしも「勇ましさ」や「栄光」を語らないということだ。むしろ、泥と血のにおい、死体を運んだときの感触、仲間が死んだときの気持ち――そうした、これまで語られてこなかった「小さな戦争の断片」が丁寧に描かれている。
また、戦後になってから女性兵士たちが受けた差別や偏見にも胸が痛んだ。命をかけて戦ったにもかかわらず、「戦争に行った女は普通ではない」と見られ、沈黙を強いられた。その現実は、戦場とは別のかたちの「戦い」だったようにも感じた。
この本は、今まで描かれてこなかった戦争のもう一つの側面を、静かに、しかし確かに私たちに伝えてくれる。戦争を知るとは、勝ち負けや戦略だけでなく、そこにいた人々の感情や記憶に耳を傾けることだと気づかされた。
本書は、戦争文学に新たな視点を加えるとともに、これからの時代にこそ読まれるべき一冊だと感じた。
お奨め度★★★

































