TIGER-無敵戦車の伝説(下)
エゴン クライネ&フォルクマール キューン 富岡吉勝(訳) 大日本絵画

下巻では、特に1944年以降の東部および西部戦線におけるティーガー部隊の戦闘が詳細に記録されている。第502、503、505、508重戦車大隊など、歴戦の部隊がどう展開し、いかにして数に勝る連合軍と対峙したのか。戦場の地名、日付、損害数、車両の稼働率などのデータは、戦史研究者にとって非常に貴重な情報であり、作戦の推移を具体的に追うことができる。
また、ティーガーという兵器の長所と限界が、戦場の現実とともに語られている点も評価できる。強力な装甲と火力を持つ一方で、その機械的信頼性、整備性、補給上の制約がドイツ軍全体の作戦行動にどのような影響を及ぼしたか。本書は、兵器単体のスペックでは見えてこない、戦争という「複合的システム」の中におけるティーガーの役割を丁寧に描いている。
例えば、ティーガー戦車の被撃破後の回収記録や、整備中に空襲を受け失われたケースなど、兵器の「戦死」に関する記述もあり、単に戦果を挙げるだけではない兵器運用の難しさを実感させる。また、大戦末期における弾薬・燃料不足、通信の混乱、指揮命令系統の崩壊など、戦局の変化が部隊行動に与えた影響も実証的に示されており、当時のドイツ軍の実情を浮き彫りにしている。
本書で登場する各部隊はティーガーといっても旧式のティーガーIEとティーガーIIB(ケーニッヒス・ティーガー)が混在しているので、読んでいると少し混乱する。またヤークトティーガー部隊による戦い(12.8cmによる敵戦車撃破の場面は興味深い)や38cm臼砲装備のシュトルムティーガーの活躍なども記されている。
なお、本書は主にドイツ側からの記録に基づく戦史であるので数値面でやや誇張があるように感じる。連合軍側の戦史と読み比べてティーガー戦車の実際の戦果がどの程度であったのかを知りたいと思った。
お奨め度★★★★







