もりつちの徒然なるままに

ウォーゲームの話や旅の話、山登り、B級グルメなどの記事を書いていきます。 自作のウォーゲームも取り扱っています。

カテゴリ: 読書

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半沢直樹4-銀翼のイカロス

池井戸潤 文春文庫

半沢直樹4-銀翼のイカロス
池井戸潤の半沢直樹シリーズ第4弾『銀翼のイカロス』は、読んでいて胸がすくような快感を味わえる作品だった。主人公・半沢直樹が次々と敵を論破し、権力や既得権益に立ち向かっていく姿は、まさに「倍返し」の代名詞にふさわしい。とりわけ政界や官僚、銀行内部の権謀術数を、半沢が理路整然と切り裂いていく場面は、読み手に爽快感を与えてくれる。まるで現実の鬱屈を小説世界で晴らしてくれるような、痛快な読書体験であった。
一方で、本作の大きな特徴でもある「勧善懲悪」の色合いは、やや極端に感じられる部分もある。悪役は徹底して悪役として描かれ、最後には必ず破滅や失脚を迎える。そのカタルシス自体は心地よいが、あまりにも単純化されすぎているがゆえに、人間の多面性や現実社会の複雑さが薄れてしまっている印象も拭えない。もしもう少し敵役にも一抹の正義や葛藤が描かれていれば、物語にさらに深みが出たのではないかと思う。
総じて、『銀翼のイカロス』は極端な勧善懲悪がもたらす爽快さと、やや単純化されすぎた構図の両方を抱えた作品だと感じた。社会派小説でありながらエンターテインメント性を前面に押し出し、読者を一気に引き込む筆致はさすがであり、シリーズの魅力をあらためて堪能できた。読み終えた後に「また倍返しが見たい」と思わせてくれる点で、本書はやはり痛快無比なエンターテインメント小説である。

お奨め度★★★


半沢直樹1 半沢直樹2 半沢直樹3 半沢直樹4-銀翼のイカロス
半沢直樹 アルルカンと道化師 下町ロケット(1) 下町ロケット(2) ノーサイド・ゲーム

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ベートーヴェン捏造-名プロデューサーは嘘をつく

かげはら史帆 河出文庫

ベートーヴェン捏造: 名プロデューサーは嘘をつく
本書は、音楽家ベートーヴェンの秘書であったアントン・シンドラーが行った「会話帳」の改ざんや破棄に迫るノンフィクションである。会話帳とは、耳の聞こえなくなったベートーヴェンが筆談で用いた貴重な史料であり、彼の思想や日常を伝える重要な記録であった。しかしシンドラーは、自分の立場を高めるため、また「苦悩する天才」という英雄像を強調するために、会話帳の多くを削除・改変し、さらには虚偽の解釈を広めていった。本書は、その捏造の実態と影響を明らかにし、ベートーヴェン像がどのように歪められてきたのかを解き明かしている。
読んでいて最も衝撃を受けたのは、交響曲第5番の副題「運命」がシンドラーの捏造であったというくだりである。私は長年、「運命の扉を叩く音」という逸話とともにこの曲を聴いてきた。しかし、それが根拠のない作り話だったと知った瞬間、今まで当然のように受け入れていた音楽史の常識が音を立てて崩れ落ちた。
シンドラーの行為は、歴史を私物化し、後世の人々を欺いた重大な過ちである。いかに彼の演出がベートーヴェンの名声を高め、広める役割を果たしたとしても、その行動を肯定することはできない。真実を意図的に歪めた以上、彼の行為は批判されるべきだ。
ただし、シンドラーという人物自体には強い興味を抱いた。彼は自らの才能や業績ではなく、偉大な芸術家に寄り添うことでしか自己を証明できなかった。その姿は哀れであると同時に、人間の弱さや執着心を象徴する存在でもある。ベートーヴェンを利用しつつも、その人生をすべて彼に捧げてしまったシンドラーの姿には、否定しきれない人間的な魅力があった。
この本は、ベートーヴェンの実像を知る手がかりであると同時に、私たちが「真実」と信じるものがいかに脆く、また人間の意図に左右されやすいかを教えてくれる。歴史における事実と虚構の境界を考えるうえで、非常に示唆に富む一冊であった。

お奨め度★★★★

ベートーヴェン捏造: 名プロデューサーは嘘をつく 歴史学ってなんだ? 戦史 七年戦争 フリードリヒ大王の指揮 フリードリヒ大王
ナポレオンの戦役(Les Batailles de Napoleon) ナポレオン フーシェ、タレーラン 情念戦争1789-1815 皇帝ナポレオン第1巻 ナポレオン戦線従軍記

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Clash of The Carriers

Barrett Tillman Dutton Caliber

Clash of the Carriers
本書は、太平洋戦争における最大級の空母決戦「マリアナ沖海戦」を題材としたノンフィクションである。本書は「マリアナの七面鳥撃ち」と揶揄されるほど一方的な戦いの実相を、緊張感あふれる筆致で描き出している。
まず印象的なのは、米軍と日本軍の戦力差が数字以上に克明に示されている点だ。航空機の性能、レーダーや戦術の差、そして何よりパイロットの練度。この三つの要素が積み重なって、日本側の敗北はほとんど必然であったことがよく理解できる。読んでいて痛感するのは、日本の空母部隊が「艦隊」と呼ぶにはあまりに脆弱で、訓練不足の搭乗員たちを戦場に送り込まざるを得なかった悲劇である。
また、本書の魅力は戦術や戦略の分析だけにとどまらない。著者は米軍パイロットの証言を多く取り上げ、空戦の緊迫感を生々しく描写している。雲を突き抜けながら敵影を探す緊張、撃墜の瞬間の興奮、そして仲間を失う悲しみ。単なる「戦果の記録」ではなく、戦争を戦った人間たちの体温を伴った物語として読ませる力がある。
一方で、日本側の記録や視点は限られており、その点ではやや偏りを感じる。日本側から見た「なぜ負けたのか」「何を守ろうとしたのか」という掘り下げが少ないため、読者によっては物足りなさを覚えるかもしれない。しかし、それを補って余りあるのが、戦場の臨場感と米軍側の組織的戦力運用の描写である。
総じて、『Clash of the Carriers』は戦史に詳しくない読者でも楽しめる読み物であり、同時に空母戦の本質を理解するうえで欠かせない一冊だと感じた。マリアナ沖海戦が「日本海軍航空戦力の終焉」であったことを、改めて強く印象づけられる。

お奨め度★★★★

Clash of the Carriers The Fast Carriers: The Forging of an Air Navy マリアナ沖海戦-母艦航空隊の記録 連合艦隊: サイパン・レイテ海戦記
海空戦南太平洋1942 Carrier Battle - Philippine Sea Pacific War

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半沢直樹-アルルカンと道化師

池井戸潤 講談社

半沢直樹 アルルカンと道化師
本書は、若き日の半沢が大阪西支店の融資課長として活躍する姿を描いた物語である。今回もまた、読者の期待を裏切らない痛快さと緊張感に満ちていた。

本作で最も印象に残ったのは、やはり半沢と銀行本部の宝田らとの対立である。買収案件を巡る圧力や、絵画の真贋をめぐる不透明な動きの中で、半沢はあくまで「正しいことを正しく行う」という信念を貫いた。宝田が地位と権力を盾に半沢を屈服させようとする場面は息苦しく、読んでいても胸が締めつけられる思いがした。しかし最後に、半沢が冷静な論理と徹底した調査で宝田を打ち負かす場面はまさに爽快そのものだった。「やられたらやり返す」という彼の姿勢が若い時代から一貫していることが示され、シリーズの原点を見たような感覚を覚えた。

また、人事部長の存在も忘れがたい。宝田らが人事を使って半沢を追い込もうと画策する一方で、人事部長はその不当な動きに屈せず、むしろ半沢を守った。その場面では、読者としても思わず胸がすっとするような心地よさを味わった。銀行という巨大組織の中で、真に筋を通す人間がいることが示された点は、大きな希望でもある。

全体を通じて、バブル末期の時代背景を巧みに活かしながら、企業売買と美術作品という一見異なる題材を結びつけた構成は秀逸であり、池井戸作品らしい社会派ドラマの醍醐味を堪能できた。半沢の信念と行動力が読者の心を揺さぶり、最後には大きなカタルシスを与えてくれる一冊である。

お奨め度★★★★

半沢直樹 アルルカンと道化師 ノーサイド・ゲーム 陸王 空飛ぶタイヤ
半沢直樹1 半沢直樹2 半沢直樹3 半沢直樹4-銀翼のイカロス

3

Military Classics Vol.91

イカロス出版

MILITARY CLASSICS-Vol91:特集-VI号戦車B型ティーガーII
特集は「VI号戦車B型ティーガーII」。WW2最強の戦車と言われている同戦車をミリクラ標準フォーマットで解説している。強い強いといわれている本車だが、側面装甲が意外に弱く、歩兵携行の対戦車火器に撃破されることが多かったとは意外だった。実戦での活躍についても善戦した例もあれば全然活躍できなかった(アルデンヌ戦など)の事例も紹介されていて興味深い。
第2特集は「九九式襲撃機」。日本機の中では比較的地味な機体だが、堅実で使い道の良かった機体であったことがよくわかる。本命の対地攻撃だけではなく、対艦攻撃や対潜哨戒にも活躍していたことは興味深い。

お奨め度★★★

MILITARY CLASSICS-Vol91:特集-VI号戦車B型ティーガーII MILITARY CLASSICS-Vol90:特集-「雪風」と陽炎型駆逐艦 MILITARY CLASSICS-Vol89:特集-二式複座戦闘機 MILITARY CLASSICS-Vol88:特集-秋月型防空駆逐艦
2025年10月号:特集-日本空母の戦い方 2025年8月号:特集-駆逐艦「雪風」 2025年6月号:特集-扶桑型伊勢型戦艦 2025年4月号:特集-日米徹底空母比較
Tanks+ Tanks+α Panzer Panzer Exp,2

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