もりつちの徒然なるままに

ウォーゲームの話や旅の話、山登り、B級グルメなどの記事を書いていきます。 自作のウォーゲームも取り扱っています。

カテゴリ:戦史 > 第3次世界大戦

Blue Water Navy(以下、本作)は、米Compass Games社が2019年に発売したシミュレーションゲームだ。テーマは1980年代における西半球全域を舞台とした米ソ両陣営の海上戦闘で、実際のは起こらなかった第3次世界大戦を扱った仮想戦ゲームだ。



今回は1989年戦術奇襲シナリオをVASSALでプレイした。うp主はNATO軍を担当する。

前回までの展開は --> こちら

3Turn(前半)

先のTurnでの航空戦で長距離爆撃機の大半を失ったソ連軍は、少数の潜水艦を除いて大西洋を航行するNATO艦隊、輸送船団に対する攻撃能力を失った。そして頼みの潜水艦もNATO対潜部隊の攻撃によって次々と撃破されていった。ちなみに前のTurnまでは対人戦だったが、このTurnからはソロプレイになる。

SO_FTR_CAGソ連艦隊は劣勢を挽回すべく、ノルウェー南部に対する上陸作戦を実施した。しかしNATOはそれを阻止すべく船団護衛から解放された空母機動部隊を北海に進出させる。4隻の米空母から発進した攻撃隊がノルウェー沖のソ連艦隊に襲いかかった。ソ連側は2隻の空母「クズネツォフ」「ミンスク」から戦闘機を発進させてこれを迎え撃つ。戦闘機同士の戦いで数機のF-14トムキャットが撃墜されたが、ソ連側の防空戦闘機隊は全機撃墜され、米攻撃隊は無傷のまま対艦ミサイルを発射した。

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US_STK_A6_S対艦ミサイル24火力(192発)がソ連艦隊に向かっていく。ソ連艦隊も対空ミサイルでこれを迎え撃つが、NATOのアルマダとは異なって対空火力は左程強力ではない。さらにNATO側の対艦ミサイルはシースキマータイプなので、対空ミサイルを突破できる可能性が少し高い。それでも対空火力20を持つソ連艦隊は、対艦ミサイルの8割近くを叩き落した。
揚陸艦艇数隻と護衛艦艇数隻に対艦ミサイルが命中、その多くが沈没又は大破した。それでも揚陸部隊はまだ戦力を残している。防空戦闘機を失ったソ連艦隊はノルウェー南部への上陸を諦め、陸上戦闘機による援護が得られるノルウェー北部近海まで後退していく。

3Turn(後半)

zMarker_1stStrikeこれまで大きな戦いがなかった米本土東岸沖であったが、このTurnの終了時点で第一撃ポイントの判定がある。米本土東岸沖に指定された「First Strike」エリアに展開したソ連側SSBNのペイロードが6ポイント以上の場合、ソ連軍は第1激ポイントを獲得できる。NATO側としては第一撃ポイントの獲得は何とか阻止したい。バミューダ近海で米ソの原潜部隊同士が激しく戦う。ヤンキー型旧式SSBNが早くも米原潜の攻撃を受けて数隻が撃沈されてしまう。

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ノルウェー北部へ後退したソ連艦隊に対して、米空母部隊は執拗に攻撃を行う。4隻の空母を発進した攻撃隊が対艦ミサイルを発射。今度は半数近くの対艦ミサイルが防空網を突破。空母「クズネツォフ」、大型ミサイル巡洋艦「フルンゼ」にも数発の対艦ミサイルが命中して大破。輸送船団も集中攻撃を受けて大型揚陸艦が撃沈されてしまい、揚陸部隊はノルウェー近海の藻屑となった。

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SO_SSBN_Yankee米本土近海では、ヤンキー型SSBNが3ステップ、新型のデルタ4型SSBNも1ステップを失い、残ったのはヤンキー型とデルタ型が各1ステップのみという状況になった。生き残ったペイロード値は合計5ポイントで、第1撃ポイントを獲得するためには1ポイントだけ足りなかった。

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4Turn(前半)

ソ連軍はデンマーク方面で作戦を行うべくバルト海艦隊を出撃させた。上陸を支援すべくTu-16バジャー爆撃機がユトランド半島のNATO軍航空基地を攻撃。これを一時的に無力化した。

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リバウ基地を出撃したソ連バルト海艦隊は、バルト海を西進してデンマークを目指す。一度ビスケー湾付近まで後退していたNATOのアルマダは、再び北海に進出し、バルト海艦隊攻撃の機会を伺う。

SO_SSN_Victor3裏ビスケー湾には欧州を目指すNATO船団の第2弾とそれを護衛する米空母2隻からなる空母機動部隊が侵入しつつあった。そこを狙ってきたソ連海軍のヴィクター3型攻撃型原潜が、護衛艦の防御スクリーンを突破して艦隊中心部に進入した。この潜水艦艦長は凄腕で、連続攻撃によりNATO船団の10隻以上を瞬く間に撃沈破した(10の目が2回連続で出た)。この時、ソ連軍が使ったカードが「断固たる攻撃」。このカードを使うとNATOのASWによる反撃を無力化できるというもの。もしこの攻撃が米機動部隊に対して実施されていれば、米空母2隻が瞬く間に撃破されるところだった。NATO側は船団が大損害を被ったものの、虎の子米空母2隻を撃破されるという最悪の事態は何とか回避できた。

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4Turn(後半)

SO_FTR_MiG25バルト海で上陸作戦中のバルト海艦隊に対し、NATOアルマダの米空母4隻が攻撃隊を放った。艦隊上空にはバルト三国やポーランドの基地を発進したMiG-25戦闘機2個戦隊が上空援護に当たっていたが、米空母を発進したF-14戦闘機がソ連側上空援護機を撃退し、米攻撃隊は例によって無傷のまま対艦ミサイルを発射した。
大型ミサイル巡洋艦「キーロフ」はミサイルの盾となり多数のミサイルを受けて轟沈した。輸送船団にも多数の命中ミサイルが命中し、上陸部隊は事実上壊滅する。

[SO_SSBN_Typhoon]北極海に展開していたソ連最強のSSBNタイフーン型の1個戦隊がGIUKラインを突破して大西洋に進出してきた。一掃されつつある米本土東岸沖に展開中のソ連SSBN部隊を強化するためである。大西洋で行動中のNATO原潜部隊は、一斉にタイフーン型に向けて進路を取った。

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5Turn(前半)

出撃したタイフーン型SSBNを護衛すべく、旧式のノヴェンバー型攻撃原潜とTu-95哨戒機が上空援護に現れた。

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しかしNATOの攻撃型原潜群は「大物現る」の砲を受けてタイフーン型に殺到。護衛のノヴェンバー型原潜は瞬く間に撃破され、タイフーン型自体もステップロスしてしまう。

5Turn(後半)

タイフーン型は結局NATO原潜の集中攻撃を受けて撃沈されてしまう。米空母4隻からなるアルマダはビスケー湾から南下、ジブラルタル海峡を通過して地中海に進入した。イタリア西方海域に進出したアルマダから攻撃隊が発進。イタリア目掛けて急進撃するソ連軍地上部隊に対して激しい航空攻撃を加える。攻撃による戦果は合計9ヒット。これによってソ連軍の進撃は3Turn(約1週間)停滞することになった。

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まとめ

今回はここで終了とした。ソ連軍は鎌ハンマーマークを1つも確保できず、この先も確保できる可能性がないので、今回はNATO側の圧勝となった。NATOの勝因は早い段階でソ連側長距離爆撃機の大半を撃墜できたこと、ソ連側としては、長距離爆撃機戦力を失った時点で事実上勝機を逸したことになる。

結果論かも知れないが、米空母4隻が集結し、対空火力が充実したNATO艦隊に対しては、長距離爆撃機を集中投入してもあまり戦果は期待できない。ソ連側の立場としては、火力の集中したNATO空母艦隊を爆撃機で攻撃するのはリスクが大きいので、このような艦隊に対しては潜水艦による攻撃に徹し、逆に長距離爆撃機は対空火力の弱い輸送船団を狙うのが望ましい方法だと思う。

NATOの立場から言えば、今回は幸運にも空母に損害が出なかったが、ソ連潜水艦の攻撃を受けた場合、米空母が無傷で済む可能性はかなり低い。1隻、場合によっては2隻程度の米空母が戦闘能力を失うことは十分にあり得ることだ。NATO側としては仮に空母が撃破されることがあったとしても、慌てずに対処しよう。無論、米空母が全滅するような事態は絶対に回避しなければならないので、空母は可能な限り集結し、対空ミサイル艦艇を集結させて、爆撃機によるミサイル攻撃から身を守る必要がある。

それにしてもBlue Water Navyは面白い。イベントの効果が少し派手すぎる気がするが、イベントの効果があるから米空母もおちおち安心できなくなる。特に1989年シナリオではソ連軍がかなり強力になっているので、米空母が撃破される可能性が高くなる。派手目の展開を望む方には、この1989年シナリオがお奨めできる。

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#BlueWaterNavy #ウォーゲーム #現代海戦 #冷戦



Blue Water Navy Game Journal 81-米中激突:現代海戦台湾海峡編
アメリカの航空母艦資料写真集 ソ連/ロシア原潜建造史 ソ連/ロシア空母建造史 海空戦南太平洋1942

Blue Water Navy(以下、本作)は、米Compass Games社が2019年に発売したシミュレーションゲームだ。テーマは1980年代における西半球全域を舞台とした米ソ両陣営の海上戦闘で、実際のは起こらなかった第3次世界大戦を扱った仮想戦ゲームだ。



今回は1989年戦術奇襲シナリオをVASSALでプレイした。うp主はNATO軍を担当する。
[SO_SSN_Akula]1989年シナリオはNATO側には改良型ロス級原潜やイージス艦等が登場してくる。しかし一方でソ連側にも静粛化した新型原潜や米空母を撃破可能なType65重魚雷、さらに新空母「クズネツォフ」や強化された長距離爆撃隊等が登場する。個人的にはNATO側にとって一番厳しいシナリオではないかと思っている。

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戦略

前回の対戦 での教訓として集中運用されるソ連長距離爆撃機の破壊的な威力がある。特にSAMの防空能力を飽和されてしまえば、損害は指数関数的に増えることがわかった。SAMの防空能力が飽和される状況というのは、端的に言えば爆撃機の発射する対艦ミサイル火力がSAM火力を上回るような状況である。そこでソ連爆撃機の投入可能な対艦ミサイル火力を計算してみた。結果が以下の通りだ。

距離2 54(Tu-95Gx2、Tu-22Mx2、Tu-16x3)
距離3 51(Tu-95Gx2、Tu-22Mx4、Tu-16x3)
距離4 36(Tu-95Gx2、Tu-22Mx4) <-- ビスケー湾
距離5 24(Tu-95Gx2、Tu-22Mx2~4)
距離6 18(Tu-95Gx2、Tu-22Mx2)
距離7 12(Tu-95Gx2)
距離8 12(Tu-95Gx2)

上を見ると、ビスケー湾に入る前なら最大で24火力の対艦ミサイルが飛んでくる。従ってHVU(高価値ユニット)を守るためには、最低でも24火力のSAMが必要だとわかる。ちなみに初期配置されているNATO各艦隊のSAM火力は、せいぜい10火力前後しかない。そこで自由配置される水上艦を高価値ユニット(空母機動部隊)に回して最低限の防空火力を補填し、その後は速やかに艦隊を集結させて対空火力30とか40とか言ったレベルまで高めていく必要がある。

もう一つの脅威はソ連の新型攻撃型原潜。特に重魚雷装備のヴィクター3型やアクラ型は脅威度が高い。しかし、こちらはある意味「どうしようもない」面があり、運が悪いと米空母1~2隻程度の損害は覚悟する必要がある。従って敵潜水艦のTFに対する攻撃は可能なかぎり防ぎつつ、運悪く空母がやられても戦力面や特に気持ちの面でリカバリーできるように備えておくのが重要だと思う。

1Turn(前半)

SO_SSBN_Delta4ソ連軍は最新・最強のデルタ4型弾道ミサイル原潜をアメリカ本土近海に出撃させてきた。その意図は第一撃ポイントを早期に取得し、全般的な戦局を有利に進めることだと思われる。

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そしてソ連軍は定番の巡航ミサイル攻撃で英本土のNATO軍航空基地を一時的に無力化し、英本土上空の防空網に穴をあけた後、Tu-95ベア2個編隊、Tu-22Mバックファイア4個編隊を米空母攻撃に送り込んできた。
アゾレス諸島北西海域を航行中の米空母「エンタープライズ」「サラトガ」を中心とする空母機動部隊は、ソ連軍長距離の大編隊によるミサイル攻撃を受けた。

写真02



米空母から発進したF-14トムキャットが迎撃する。トムキャットの攻撃を受けてバジャー数機が撃墜されたが、残りの各機は対艦ミサイルを発射した。
200発近い対艦ミサイルが大空を埋め尽くす。それを400発近い対空ミサイルが迎え撃つ。殆どの対艦ミサイルが対空ミサイルによって撃破されてしまい、防空ミサイル網を突破した数少ない対艦ミサイルも短距離ミサイル、火砲、近接防御兵器によってその悉くが撃墜された。米空母に被害はなし。

SO_SS_Foxtrotソ連機の攻撃を避けるために大西洋を南下する米艦隊に対して凄腕のソ連フォクストロット型ディーゼル潜が襲撃を行う。米艦隊の防御スクリーンを突破したディーゼル潜は、NATOの船団に魚雷攻撃を行い、数隻の輸送船を撃沈した。

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1Turn(後半)

SO_TROOPS2ソ連北方艦隊がノルウェー北部に上陸を開始した。上陸地点はボードー。上陸したソ連軍海兵隊は、ノルウェー北部から南部に向けて進撃を開始する。ノルウェー海軍の小型潜水艦が迎撃出撃したが、輸送船1隻が魚雷を食って沈没したが、ノルウェー潜水艦1隻も反撃を受けて沈没した。ソ連軍は早速戦闘機隊を北部ノルウェーに進出させる。

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一方イベリア半島西方海域に進出したNATO艦隊は、集結して1個の巨大なタスクフォースを形成する。空母5隻、うち4隻が米海軍のスーパーキャリアという「アルマダ」が誕生した。

2Turn(前半)

SO_STK_Tu16ソ連軍はフランス本土のNATO軍航空基地を攻撃する。バルト三国の航空基地を発進したTu-16バジャー3個連隊が発進。バルト海、さらには北海でパトロール中のNATO戦闘機の妨害を突破して巡航ミサイルを発射する。巡航ミサイルが命中して飛行場は3打撃を被った。

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この攻撃で防空網が薄くなった隙にTu-22Mバックファイアの編隊がコラ半島からノルウェー沖を南下してさらなる巡航ミサイル攻撃を実施する。ミサイルが命中してさらにフランス国内の航空基地はさらに大損害を被る。

一方、イベリア半島沖合を北上してきたNATOアルマダは、ビスゲー湾に進入した。このままブレストに入港できれば、強力なNATOの地上部隊がヨーロッパに展開することになる。

2Turn(後半)

SO_STK_Tu22先のTurn、フランス国内の航空基地を叩いたソ連軍の目的は、ビスケー湾に進入してきたNATOアルマダの上空援護を弱体化することにあった。その目的を一応果たしたソ連長距離爆撃機は、いよいよNATOアルマダに対して航空総攻撃を仕掛けてきた。その戦力はTu-95ベアが1個戦隊とTu-22Mバックファイアが4個戦隊である。バックファイアは空中給油機によって航続距離を延伸していたが、それでも航続距離ギリギリだったので対艦ミサイルを半数搭載で出撃してきた。

北海上空に進入してきたソ連軍爆撃編隊を英本土から発進したトーネード戦闘機が要撃する。トーネードの迎撃によってバックファイア1個戦隊がステップロスを食らう。さらに思わぬ反撃に混乱したソ連軍編隊は、バックファイア1個戦隊がミサイルを投棄して引き上げてしまう。

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US_FTR_F14_Ken残ったソ連軍編隊はビスケー湾上空に進出し、遂にNATOアルマダを発見した。対艦ミサイルを発射しようとした矢先、NATOアルマダを発進した戦闘機隊が迎撃のために発進してきた。ちなみにこの時期、NATOアルマダには空母6隻が合同しており、その内訳は4隻の米空母と1隻の英空母、そして1隻はスペインの空母である。

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さすがに空母6隻分の迎撃戦闘機の威力はすさまじく、ソ連爆撃隊は悉く戦闘機の餌食となった。それでも大半の爆撃機が対艦ミサイル発射後に撃墜されたため、計15火力(約120発)の対艦ミサイルがNATO艦隊に向けて殺到した。
NATOアルマダのSAM火力は36。15火力程度の対艦ミサイルなら余裕で対処可能だ。対艦ミサイルの大半がSAMによって撃破され、残った対艦ミサイルも近接防御兵器等でそのすべてが無力化された。

ソ連機の攻撃を排除したNATO輸送船団は無事にブレストに入港した。

つづく


#BlueWaterNavy #ウォーゲーム #現代海戦 #冷戦



Blue Water Navy Game Journal 81-米中激突:現代海戦台湾海峡編
アメリカの航空母艦資料写真集 ソ連/ロシア原潜建造史 ソ連/ロシア空母建造史 海空戦南太平洋1942

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Blue Water Navy
今回紹介するのは、Compass Games社の海戦シミュレーション
『Blue Water Navy』です。

舞台は1983年、冷戦下の北大西洋。
もしソ連がNATOに挑んだら…?という仮想戦争を描く大型ウォーゲームです。

・NATOの補給線を守り切れるか?
・ソ連艦隊が大西洋へ突入できるのか?
・航空機、潜水艦、ミサイル、そして政治的要素まで絡む壮大な作戦級ゲーム!

この動画では
 ① ゲームの基本コンセプト
 ② ターン進行(シークエンス・オブ・プレイ)
 ③ どんなプレイ感覚になるか
を霊夢と魔理沙の掛け合いでわかりやすく解説します。

冷戦期ウォーゲームや現代海戦ゲームに興味のある方はぜひご覧ください!

#BlueWaterNavy #ウォーゲーム #現代海戦 #冷戦



Blue Water Navy Game Journal 81-米中激突:現代海戦台湾海峡編
アメリカの航空母艦資料写真集 ソ連/ロシア原潜建造史 ソ連/ロシア空母建造史 海空戦南太平洋1942

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「Firefight」は、1970年代末の米ソ戦術戦闘を題材とした現代戦の戦術級シミュレーションゲームである。デザインはウォーゲーム界の重鎮ジェームズ・ダニガン。
本作は単なる娯楽用ゲームという枠を超え、米陸軍が一部資金提供を行い、訓練教材としての役割も担っていたという特異な背景を持つ。目的は、現代兵器が持つ長射程と高い殺傷力が、戦場における戦術や技術にどのような影響を及ぼすかを、視覚的かつ実践的に理解させることであった。

ゲームでは、プレイヤーは火力チームや個別の装甲車両を指揮し、1ターン40秒で戦闘を展開する。マップ上の1ヘクスは50メートルを表しており、プレイヤーはリアルなスケールで高機動・高火力の現代戦闘を体験することになる。兵器の性能や地形の特性、部隊の配置と連携など、あらゆる要素が戦術判断に直結するため、綿密な計画と即応的な対応が求められる。

ゲームに含まれるコンポーネントは、1/2インチサイズのダイカット済みカウンターが400個、4色刷りの大型マップが2枚(それぞれ22インチ×34インチ)付属している。ルールブックは英文20ページ。SPIの他の現代戦ゲーム(例えば「Mech War」等)に比べるとルールは比較的シンプルである。さらに英文20ページのブリーフィングブックが用意されており、詳細なデータと運用例が掲載されている。ルールは中程度の複雑さであり、戦術級ゲームとしては理解しやすく、また1人からでもプレイ可能であることから、ソロプレイにも適している。プレイ時間はシナリオによって異なるが、おおむね2~6時間を想定している。

ゲームの手順は、直接射撃、移動、間接射撃を両軍が半同時処理的に解決する。射撃や移動はお互い1ユニットずつ交互に実施する。射撃システムは、ユニットの種類と目標種別、距離に応じた火力を求め、火力とダイス目によって戦闘結果を求めるという形になっている。ゲームスケールは車両1両、火砲1門単位ながら、命中判定・撃破判定の区別もなく、戦車の向き(フェージング)に関するルールもない。射撃解決自体は極めてシンプルになっている。戦車別の装甲防御力もなく(そもそも登場する戦車がM60系列とT-62だけなので、装甲防御力の違いは火力に反映されている)、戦車の移動力も違いはない。なお登場するAFVも米軍はM60系列とM113、ソ連軍はT-62とBMPだけだ。

ちなみに選択ルールを使えば、XM1や将来IFV、ソ連側にも未来型MBT(T-64やT-80)を登場させることもできる

歩兵が入った場合でも戦闘解決方法は戦車同士の場合と基本的には同じで、火力や戦闘結果表が変わるのみである。間接射撃だけは少し異なっていて、事前の射撃計画と着弾観測が必要になる。

シナリオ1

まずはシナリオ1に挑戦する。
このシナリオは、中隊規模の米軍戦車部隊(M60A2 17両)と小隊規模のソ連戦車部隊(T-62 4両)の戦いを扱っている。兵力に勝る米軍が攻撃側、ソ連軍が防御側になる。

最初にプレイした時には、町に籠って待ち伏せを図ったソ連軍であったが、米戦車の数両を撃破した後で米戦車の集中攻撃を受けてソ連戦車部隊は文字通り壊滅してしまった。

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上記の教訓を受けてソ連軍は配置を見直した。地形効果が高いのは市街地よりも遮蔽地形なので、遮蔽地形背後にT-62戦車を配置し、待ち伏せで米戦車隊の撃破を狙う。米軍はTurn数制限の関係上、ソ連戦車が待ち構える道路上を進むしかない。

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第3Turn、距離15ex(750m)に近づいてきた米戦車に対して、T-62が一斉に砲火を開いた。できれば4両撃破を狙いたいソ連軍だったが、出目が振るわず2両撃破に留まる。対して米軍は約10両の戦車が行進間射撃を行い、1両のT-62を撃破する。

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ソ連戦車が姿を現したので米軍戦車は停止射撃を行う。距離は700~1000mで両軍が撃ち合う。遮蔽物に隠れているソ連戦車が戦術的にはやや有利だが、なんせ数が違う。まともに撃ち合ったら数に劣るソ連側には勝ち目がない。ソ連戦車がさらに米戦車2両を撃破したものの、残った米戦車の集中砲火を浴びてソ連戦車は全滅。結局両軍は4両ずつを失い、勝利条件的には米軍の勝利に終わった。

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感想:このシナリオ、ソ連側に勝ち目があるのかなぁ・・・?

シナリオ2

次のシナリオは、立場を変えてソ連が攻撃側、米軍が防御側になる。
ソ連軍の兵力はT-62 1個中隊(13両)、米軍は機械化歩兵小隊である。米軍の兵力はM113兵員輸送車が4両、歩兵チーム6個、M150対戦車車両2両だが、M113は対戦車火力を持たないので、使えるのは歩兵とM150のみ。

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ソ連軍は道路沿いに攻めあがってくる。しかし遮蔽物に隠れていたM150対戦車車両が、距離2200m(44Hex)からTOWミサイルを発射し、T-62戦車2両が早くも撃破される。T-62も反撃するが、距離が遠く、しかも遮蔽物に隠れているM150になかなか命中弾を与えられない。

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結局第7Turnにようやく2両のM150を撃破することに成功したソ連軍であったが、その間に5両のT-62戦車を失ってしまった。

ようやく進撃を再開したソ連軍は、目標となるヴェルスバッハ市街地から1000mの距離に近づいた所で、町の中から3発のドラゴンミサイルが飛来。T-62戦車2両に命中し、撃破されてしまう。これで残ったT-62戦車は6両となる。

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残ったT-62戦車はヴェルスバッハ市街地から450mの距離まで近づき、そこから米歩兵に集中砲火を浴びせる。この距離ならLAWの射程距離外だからT-62が撃破される心配はない(ドラゴンミサイルはさっきの射撃で撃ち尽くしている)。もっと近づいた方が良さそうにも思えるが、T-62の対歩兵火力はこれ以上近づいても大きくならない。

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結局最終TurnまでT-62は撃ち続けたものの、米歩兵を1個排除できただけで、時間切れで米軍が勝利した。

感想:戦い方が拙いのかもしれないが、このゲーム、シナリオのバランスが悪いように思う。

感想

SPIらしい「渋い」ゲームである。
現代戦ゲームファンが喜びそうな「戦車対戦車の激しい撃ち合い」はあえてアッサリ処理し、ルール全体を軽くして玄人好みしそうな作品としている。ただ惜しむらくは各シナリオのバランス調整が今一つで、シナリオをプレイしてもあまり競技性が高くないこと。元々軍隊での訓練用の作品なのでシナリオの面白さはあまり重視していないように思えるが、もう少し何とかならなかったのか、という気もする。

今は亡きSPIらしさを感じる作品だ。

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機甲戦の理論と歴史 幻の東部戦線 機動の理論 FOX TWO!!


コマンドマガジン Vol.177『ヴュルツブルク』 コマンドマガジン177号の付録ゲーム「ヴュルツブルク」は、1977年に米国SPI社が出版した「Modern Battles」という作品に含まれている1作である。Modern Battlesは、1970年代における史実の戦いや仮想戦を扱った4つの独立したゲームを含んだ作品であり、各ゲームは共通のルールを持っているので、ルールの習熟が比較的容易であるという特徴を持っている。

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ゲームシステムの基本は、いわゆるNAW(Napoleon at War)システム。強ZOCでスタック禁止、戦闘は戦力差のMust Attack。戦闘結果以外で敵ZOCからの離脱は禁止である。砲兵部隊も含んでおり、砲兵の弾幕射撃によって攻撃義務を満たすこともできる。基本システムに関していれば現代戦らしいルールは殆ど見当たらず、ナポレオン時代のシステムをそのまま現代戦に持ち込んだ感じだ。

「ヴュルツブルク」は、1970年代後半にソ連を盟主とする東側陣営が西ドイツに進攻した場合のヴュルツブルク周辺での戦いをテーマとしている。ヴュルツブルク周辺といえば、精鋭の誉れ高い米第7軍団(湾岸戦争で多国籍軍機甲部隊の中核となった部隊)が駐留しており、最近再販されたCompass GamesのAir & Armorでも主戦場となっている場所だ。

「ヴュルツブルク」(以下、本作)は、Modern Battlesの基本システムを踏襲しつつ、ヘリコプターや河川の横断、戦術核兵器等のルールが追加されている。中でも戦術核兵器のルールは選択ルールながらも本作の一大特徴をなしている。そこで本作における戦術核兵器の扱いについて、少し説明したい。
本作では、戦術核兵器は弾頭威力によって区別された1発の核弾頭を表している。核弾頭には5kt、20kt、50ktの3種類があり、それ以外に100kt、200ktのものがあるがゲームには登場しない(これらは戦術核兵器ではなく戦域核兵器の範疇に属するものである)。余談だが、広島に投下されたリトルボーイが約16kt、長崎に投下されたファットマンが約21ktの弾頭威力を持っていたとされている。
核弾頭の威力に応じて危害半径が設定されていて、当然ながら大型核弾頭の方が危害半径が大きい。そう考えると大型核弾頭の方が使えそうに思えるが、そうはいかない。まず大型核弾頭の場合、敵だけではなく味方にも被害を及ぼす可能性がある。米軍の場合、味方に被害が及ぶような核攻撃は一切禁止されているし、ソ連軍の場合でも米軍よりは緩いものの味方の損害を度外視して核兵器をバラまくことはルールで禁止されている。だから敵味方が近接している地域での核攻撃は案外難しい。米軍はそのことを見越してか、威力の小さい5ktクラスの核弾頭を多数保有している、実際にプレイしてみると確かに5kt弾の方が50kt弾よりも遥かに使いやすい。その一方でソ連軍は大威力の50kt弾を数多く保有しているが、その大威力は当のソ連軍ですら持て余し気味だったことがわかる。

核兵器を使用する際には、使用する1Turn前に目標Hexと使用する弾頭をプロットしておく。そして然るべき手順で核攻撃を実施する訳だが、その時、上記に示した「友軍被ばく」の制限に抵触してしまうと、攻撃は中止となる。ちなみに1Turnに使用できる核弾頭数は、米ソそれぞれ最大3発まで。また使用可能な核弾頭の総数は、米軍が20発、ソ連軍が10発である。

この「核弾頭の攻撃目標を1Turn前にプロットする」という部分は、「ゲーム的」と感じる部分である。核攻撃についてある程度の事前計画が必要なことはわかるが、砲兵射撃は適宜実施できるのに核兵器だけが「妙にドンクサイ」というのはやはり不自然だ。まあ戦術核兵器は実戦で使用したことがない兵器なので何とも言えない部分だが、「狙った所に敵がいなかった」というのはあまり考えにくい。まあ核兵器は威力が大きいので扱い方を間違えるとゲームを崩してしまう危険性があるので、実際の効果とゲーム上でのバランスを勘案した結果が上記のルールだと個人的には考えている。

余談だが、ゲーム上では最大30発の戦術核弾頭がヴュルツブルク周辺で炸裂する可能性がある。さらに西ドイツ全土でも同様の惨劇が繰り広げられることになるのだろう。そうなったら西ドイツ全体が人の住めない場所になっていただろうことは想像に難くない。否、ドイツだけではなくその周辺諸国も人の住めないノーマンズランドになっていたかもしれない・・・・。


話を戻すと、本作には計4本のシナリオが含まれている。それぞれが米ソ対決の様々な場面を描いていて、一番に短いシナリオ1「前進と接触」は、米ソ両軍による典型的な遭遇戦を扱っている。このシナリオの勝敗はヴュルツブルク市の支配だけど、核によって破壊されたヴュルツブルク市の支配にどれほどの意味があるのか疑問に思えるのは筆者だけではないだろう。
シナリオ2「ヴュルツブルク包囲戦」は、ヴュルツブルクに陣地を構築する米軍部隊をソ連軍が強襲し、これを撃退するシナリオである。ゲーム終了時点でヴュルツブルクの一角を米軍部隊が占めていて、さらに補給線がつながっていれば米軍が勝利する。
シナリオ3「グラムシャツの森」は、弱体な米軍部隊を追いかけてせん滅を図るソ連軍に対し、増援に現れた米軍部隊が反撃を行うというシナリオ。両軍とも激しく攻撃を行うという派手目のシナリオである。
シナリオ4「メインリバー・ライン」は、米軍が反撃するシナリオである。

シナリオ1「前進と接触」

最初にプレイしたのが、シナリオ1「前進と接触」である。このシナリオは典型的な遭遇戦で、米ソ両軍がヴュルツブルク市街地の確保を目指して戦うシチュエーションだ。今回は核兵器ルールは使わず、筆者は米軍を担当した。

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結果は米軍の勝利に終わった。米軍は砲兵ユニット数で勝り、そのために攻撃・防御時に有利である。攻撃時は砲兵による「犠牲攻撃」が可能で、防御時にはここ一番に砲兵火力を集中して攻撃を頓挫させることができる。このシナリオで普通にプレイすれば、米軍の優位は動かないと思う。

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シナリオ3「グラムシャツの森」

続いてシナリオ3「グラムシャツの森」をプレイしてみた。このシナリオは序盤に圧倒的なソ連軍が米軍を押しまくり、後半に米軍に大量の増援が登場してきて反撃するというシナリオである。今回も筆者は米軍が担当した。そして今回は核兵器のルールを採用してみた。

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序盤、米軍の配置ミスで両翼の2ユニットを包囲攻撃で失ってしまう。この時点で萎えそうになったが、増援が来るので頑張ろうと思いなおす。米軍の強みは敵に倍する核攻撃力なので、結構無慈悲に核攻撃を見舞ったが、思ったほど効果が上がらない。このゲーム、核攻撃が直撃してもユニットそのものが蒸発することは殆どなく(爆心地にいても消滅する確率は1/3)、大抵の場合は混乱してZOC損失、移動・攻撃禁止になる( エラッタも参照 のこと)。核攻撃が最も威力を発揮するのが自身が攻撃を開始する直前。敵ユニットの足を止めてZOCを消すと、そのユニットを包囲して容易に殲滅できるようになる。本作で核攻撃の位置づけは、敵を殲滅する主要な手段ではなく、通常戦闘を有利に進めるための「強力な補助的手段」と位置づけされていることが理解できる。

序盤、兵力に勝るソ連軍が米軍を押しまくり、米軍は数少ないユニットを使って必死に戦線を張るという展開。中盤以降に米軍の増援部隊が登場してくると米軍の前線が安定してき、米軍による反撃が始まるという展開になった。

今回は第5Turnまでは米軍が押されていたが、第6~7Turnに反撃を実施。特に第7Turnにソ連軍左翼に猛攻撃を加えて3ユニットを包囲殲滅。これでソ連側戦線左翼が崩壊し、今回も米軍の勝利で終了した。

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感想

核の有無でゲーム展開がかなり違う感じがする。核なしではナポレオンゲームみたいに戦線を張って殴り合いという展開だが、核ありでプレイすると核攻撃を避けるために散開した部隊同士の機動戦になる。どちらの場合もゲームとしては面白いが、核ありの方が変化に富んでいて面白いと感じた。

全般的には、現代戦を扱った作品の中ではプレイアビリティが高くゲームとしても面白い佳作だと思う。何やかんや言っても核兵器を使うという背徳感が魅力だ。他のシナリオも面白そうなので、是非機会を見つけてプレイしてみたい。

[M60戦車]

コマンドマガジン Vol.177『ヴュルツブルク』 コマンドマガジン Vol.180『ゴラン』
The Art of Maneuver: Maneuver Warfare Theory and Airland Battle M1 Abrams vs T-72 Ural: Operation Desert Storm 1991 (Duel Book 18) Bradley vs BMP: Desert Storm 1991 (Duel Book 75) 幻の東部戦線

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