これまで何度か紹介しているVUCA社の仮想戦シミュレーション・ウォーゲーム「Red Strike」(以下、本作)のシナリオをプレイしてみた。
今回プレイしたシナリオは、シナリオB3「North German Plains」。北ドイツ平原を巡るWP軍とNATO軍の対決である。登場ユニット数356個で、キャンペーンシナリオを除けば本作で最大規模のシナリオである。
圧倒的兵力で北ドイツ平原を席捲するWP軍戦車部隊に対し、NATO軍はいかにして対抗するのか・・・。
シナリオの勝利条件は、第3Turn終了時点でWP軍がウェザー川西岸に橋頭保を築くことと、ハンブルクの港湾施設を占拠することである。
今回筆者はNATO軍を担当した。
前回までの展開は --> こちら
3Turn
事実上の最終Turnである。WP軍も勝利条件を理解しているので、ウェザー川への突進を試みる。
NATO側のスタックは見かけ上「武蔵小杉のタワマン」状態だが、実質はボロボロ。WP軍の蹂躙攻撃に対抗できずに次々と強制後退を強いられる。
すると後方でスタック制限超過の「超高層タワマン」状態となる。こうなるとスタックの中身を見るのも一苦労。「もうどうでも良いや」という状態になる。「こんなクソゲー、やってられるか」という気持ちにも、ならなかったと言えば嘘になる。
そんなNATO軍の状況を無視してWP軍はウェザー川防衛ラインに全力攻撃を仕掛けてくる。かくいうWP軍もこれまでの大盤振る舞いが祟り、補給ポイントが残り少なくなってくる。シナリオの初期配置では350ポイントもの補給ポイントを保有していたWP軍だが、1回の全力攻撃で最低でも16ポイント、下手をすれば30ポイント近く消費しているので、残りが少なくなってきたのだ。
WP軍はなけなしの補給ポイントを全振りしてウェザー川渡河攻撃を行う。NATO軍もHasty Defense(急速防御)に補給ポイントを注ぎ込んで防衛ラインを死守を図る。WP軍はNATO軍防御部隊に化学兵器を集中投入し、一気に11戦力を失わしめた。WP軍は化学兵器を投入して戦闘比を最高の10-1まで上げて、さらに砲兵支援でDRM+3。出目が5以上ならNATO側は強制後退になるので、ウェザー川の西岸にWP軍は橋頭保を確保する。逆に出目が4以下なら、NATO側が死守に成功し、WP側の勝利はなくなる。ちなみにこのゲームのダイスはD10なので、出目5以上が出る可能性は60%だ。
WP側プレイヤーが振ったダイス目は、"2"。WP軍のウェザー川渡河作戦に失敗し、NATO側の勝利が決定した。
感想
本作最大規模のシナリオをほぼ2日間かけてプレイした。プレイ時間は実質15時間程度(セットアップ含む)。1Turnの平均所要時間は4~5時間になる。実際の所、初日はセットアップと第1Turnのプレイだけで終わってしまい、2日目は第2~3Turnを約6時間かけてプレイした。作戦レベルでの反省点だが、部隊編成をバラバラにしたのはやはり失敗であった。最初の段階で部隊編成やヒエラルヒーをちゃんと理解し、可能な限り建制を崩さないように配備すべきであった。また地形効果の読み間違いも痛かった。前回のプレイでも誤解していたのだが、森の地形効果を防御力2倍と見誤っていた。しかし防御力2倍になるのは非機械化部隊のみ。初期配置されているNATO軍部隊のほぼ全てが機械化部隊なので、森の防御力恩恵の効果は得られないことがプレイ中に判明した。それなら無理に森で守らず、その前の川のラインで守った方が良かったかもしれない。
さらに言えば、WP軍の化学兵器効果が強力なので、生半可な戦闘比なら簡単に最高比にまで持っていかれてしまう。だから序盤は無理に拠点に集中防御するのではなく、ZOCを張れる程度の部隊を縦深配置し、前方の部隊は戦術的撤退によって兵力を温存するのが得策だったかもしれない。シナリオの本番は第2Turn以降の戦いになるのだから、そこまでは可能な限りNATOとしては兵力を温存しておくのが正しい戦術であったように思う。あと、プレイ中にも触れたが、ユトランド半島入口は可能な限り死守すべきであった。その結果、リューベックを守る部隊(西ドイツ第6装甲擲弾兵師団又は第3装甲師団)が包囲されたとしても、港湾補給によって飢えることはない。よしんば包囲殲滅されたとしても、その分時間稼ぎができたのならヨシとすべきだろう。
全般の反省として、やはりプレイの前の準備が不足していたことは否めない。少なくとも麾下の部隊編成を理解し、各部隊毎に任務を明確にしておくべきであった。それがなかったため、各地で雑多な部隊を糾合しただけのハイスタック防御となってしまい、前線部隊に余分な苦戦を強いた点は大いに反省すべき点であった。
プレイ全体の感想だが、正直な所、後半はかなりプレイが辛かった。というのもスタックが大きくなり過ぎて、スタックの中身を一々把握するのが困難になってきたということだ。本作の場合、NATO軍は連隊~旅団規模が基本なので、1Hexに戦闘部隊だけで6ユニットがスタックできてしまう(スタック制限は6個連隊相当)。さらに司令部等の支援部隊、ヘリ部隊、CAP部隊等がスタックされ、さらに損害を受けたユニットには損害マーカーが付与されるのでスタックはそれころ「これって武蔵小杉のタワマンですか?」というぐらいの状態になってしまう。このスケールのゲームならNATO側は師団規模ユニットにした方がプレイアビリティが良くなると思うのだが・・・。
ただしハイスタック問題については、プレイヤーが事前に麾下の部隊編成をちゃんと理解しておくことで回避できる問題でもある。上にも書いたが、今回のプレイでは筆者自身が準備不足だったことが混乱に拍車をかけたキライがある。だから一概に「ゲームが悪い」と決めつけることはできないとも思っている。
ゲームシステムも詳細なのは良いのだが、詳細過ぎて余計な手間が多すぎると思う。航空機がマップ上を「実際に飛行して」爆撃を行うシステムにしても、AWACSによる探知やCAP機による迎撃、BVR戦闘等、まるで「パイロットが判断すべき事項をプレイヤーが行っている」感覚すら覚える。CAS(近接航空支援)も手間がかかり過ぎる上、CASの成否が戦闘結果に与える影響が大きいだけに手抜きができないのが辛い。
本ゲームのシステムは、元々はペルシャ湾の戦いを扱ったGulf Strike(Victory Games 1983)、エーゲ海の戦いを扱ったAegean Strike(Victory Game 1986)で採用されたシステムを部分修正したものである。中東油田地帯やバルカン半島のように部隊密度が低い地域ではこのシステムが比較的問題なく機能した。しかし部隊密度が高く、航空戦力も集中配備されているヨーロッパ中央部でこのシステムを採用するのはやはり無理があると言わざるを得ない。陸戦、海戦、航空戦のいずれも高い精度で再現できるゲームシステムというのはウォーゲーマにとっては一つの夢だ。しかし実際には陸戦専用、海戦専用、航空戦専用ゲームと比べるといずれの面でもゲーム性、シミュレーション性共に劣るという結果になるのが通例だ。陸戦ゲームをやりたければ、The Third World WarやNATO(いずれもCompass Games)をプレイするれば良いし、海戦ゲームならBlue Water Navy(Compass Games)という傑作もある。空戦ゲームならRed Strike(GMT Games)もあるし、今ならネットゲームで良いものがいくつもある。
今回、このシナリオをプレイしてみて、この規模になると最早リアルな環境でプレイするのは困難だと認識せざるを得なかった。中規模シナリオであっても、以前に紹介した B1.Fulda Gap ぐらにならギリギリでプレイ可能かもしれない。
あるいは以前にプレイした B5.Miami1989 やB6.Valkyrie's Embraceのような海戦シナリオなら、ルールがシンプルで登場ユニット数も少ないのでプレイは十分に可能だろう。
実際のプレイの後、VASSAL環境を使って本シナリオを少し走らせてみた。VASSALの場合、ハイスタックが出来てもプレイに支障はないので、快適にプレイできた。本作の中規模以上のシナリオをプレイするのであれば、現時点ではVASSALによるプレイが最適解だと思った次第である。
ゲームの種類によってはリアルでの対戦よりもVASSAL対戦の方が向いてるゲームが結構多いかも。一旦は諦めかけた本作キャンペーンシナリオのプレイについても「VASSALを使えば何とかなるかも」と、お気楽に考えている今日この頃である。
上はキャンペーンシナリオのセットアップをVASSAL上で見たものです。あーあ、確かにいつかキャンペーンシナリオをプレイしてみたいなぁ・・・。