もりつちの徒然なるままに

ウォーゲームの話や旅の話、山登り、B級グルメなどの記事を書いていきます。 自作のウォーゲームも取り扱っています。

カテゴリ:ゲーム > ゲームデザイン論

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Simulation War

Philip Sabin BloomSbury

サブタイトルは"Studying Conflict through Simulation Games"(シミュレーションゲームを使って闘争を学ぶ)とあり、シミュレーションゲームを主に学習ツールとしての側面から論じた著作である。本書は3章構成からなり第1章はTheoryでウォーゲームについての一般的な定義。第2章はMechanicsでウォーゲームのメカニズム(Turn、Hex、ZOC等一般的なウォーゲームの仕組み)について語っている。第3章はSampleということで、著者が学生教育用に作成したいくつかのウォーゲームの紹介記事になっている。テーマは戦略級のポエニ戦争、作戦級のコルスン包囲戦、戦術級の歩兵戦闘といった一般的な所から、歩兵部隊同士の市街戦(スクエアマップを使用している)、ドイツ本土を巡る戦術・作戦級の航空戦、戦術級の空戦ゲームといった珍しいテーマのゲームも含まれている。
ウォーゲーマーの立場から本書を見た場合、プレイヤーの立ち位置や戦場の霧、摩擦の再現といった既に語り尽くされた感のある話題について、改めて見直すことができる。また日本では殆ど顧みられない教育ツールとしてのウォーゲームについても新たな視点を与えてくれるだろう。

お奨め度★★★★

Historical Simulation and Wargames Simulation War Peter Perla's the Art of Wargaming Zones of Control - Perspectives on Wargaming

Historical Simulation and Wargames
Simulation War
Peter Perla's the Art of Wargaming
Zones of Control - Perspectives on Wargaming

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「ウォーゲームに対する汚名」「ウォーゲームに対する烙印」・・・、まあ、何でも良いんですけど、まあそんな意味ではないでしょうか。このブログでも何度か紹介しているPhilip Sabin教授がまとめた「ウォーゲームに対する"様々な言葉"を集めたものです(必ずしもネガティブな言葉ばかりではない)。英文ですが、小さな冊子なので一読してみては如何でしょうか。ウォーゲームというホビーに対する一般的な見解をワールドワイドに知ることができます。

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私が興味を持ったのは"Art vs Science"の項目。これは米海軍大学教授であるRobert Rubel氏がウォーゲームについて語ったもので、プロフェッショナルな視点から見たときのウォーゲームの価値について興味深い記述になっています。

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有効な知識は戦争ゲームから出てくることができますが、デューデリジェンスが適用されている場合に限ります。 その勤勉さは、戦争賭博が真の職業ではなく技巧であるため、今日、かなり妨げられています。 はるかに多くの作業が必要です。 ゲームの価値を信じる人は、真にプロフェッショナルな戦争ゲームの目標に向かって結びつき、今作業しなければなりません。
(Geogle翻訳より)

まあ翻訳ソフトなのでこんなものですが、私なりに意訳すると
「ウォーゲームからは有用な知識を得ることができるが、それは不断な努力が行われた場合のみである。その不断な努力とは、今日ウォーゲームが真にプロフェッショナルなツールではなく技巧的なものになっているためにしばしば妨げられている。真にプロフェッショナルなウォーゲームというゴールに向けて今こそ仕事をするときである。」

・・・、Geogle翻訳に負けているかも・・・。

Historical Simulation and Wargames Simulation War Peter Perla's the Art of Wargaming Zones of Control - Perspectives on Wargaming

Historical Simulation and Wargames
Simulation War
Peter Perla's the Art of Wargaming
Zones of Control - Perspectives on Wargaming

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Zone of Control - Perspectives on Wargaming

Henry Lowood and Raiford Gunis

ウォーゲームに関する書籍で約60件のウォーゲームに関する記事が掲載されている。執筆者の多くは現役のゲームデザイナーで、Mark Herman、Jack Green、Ted S.Raicer等は我が国でも良く知られたデザイナーだ。執筆者の中には、Game Journal編集長のふーらー氏も名を連ねており、実世界を実世界通りにモデリングする限界や抽象化したシミュレーションの優位性を説いている(個人的にはあまり合意できない内容であった)。
個人的に面白いと思ったのは、まずJack Green氏の論文。ジュトランド海戦をテーマとした精密ゲームのDNで、詳細化された砲戦システムと審判を導入したマルチプレイヤー用のビックゲームのようであった。またDown Townシリーズのデザイナーとして知られているLee Brimmicombe-Woodは、ゲームにおける航空戦力の扱いと空戦ゲームの歴史について語っている。Mark HermanはEmpire of the Sun(GMT)を題材としてCard Driven System(CDS)について、Ted RaicerはPaths of Glory(GMT)を題材としてWW1テーマゲームとCDSの可能性についてそれぞれ興味深い論文を投稿している。
また本書は単なるウォーゲーム紹介ではなく、軍や学術界におけるウォーゲームの利用、あるいはコンピュータ利用の一人用シューティングゲーム(FPG)等についてもページを割いている。尤も、FPGに関する記述は殆ど理解できなかったというのが本音だが・・・。
英文約800ページととにかくボリュームが多く、読み通すのは大変だが(私は2ヶ月以上かかった)、それほど高価でもなくウォーゲーマーなら一読して損のない内容だと思う。

お奨め度★★★★

Historical Simulation and Wargames Simulation War Peter Perla's the Art of Wargaming Zones of Control - Perspectives on Wargaming
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Simulation War
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Zones of Control - Perspectives on Wargaming

別に空戦ゲームをディスるつもりはありませんが、ボード空戦ゲームファンとして「ちょっとおかしいなぁ」と思っている点について書きます。

一番おかしいと思うのは「旋回性能が何故か一番重要」という点です。
この傾向は特に「精密」と呼ばれる空戦ゲームで顕著で、「究極の空戦ゲーム」と呼ばれるFighting Wings(COA)シリーズ等では、複葉機が一番使いやすい、という「どこのイタリア空軍か?」と思えるような事になってしまいます(単に私が下手だけなのかもしれませんが)。Air War(SPI)もまたしかり。逆に加速性能に優れたF-104等は、空戦ゲームの世界では全く使えません。

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この傾向は逆に抽象度の高いゲームの場合はあまり問題にはなっておらず、例えばZero!に代表されるDown in Flamesシリーズ(GMT)では速度性能と旋回性能をまとめて運動性としているので、違和感なくプレイできます。また横スクロール空戦ゲームWing Leader(GMT)では、ドグファイトか速度戦闘かを主導権側が選択できるようになっているため、速度性能に優れた機種の方が性能発揮し易くなっています(そのためWLでは我らがA6Mが酷く弱い)。

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微妙な所はAir Powerシリーズ(GDW/COA)で、ジェット空戦を扱っているためか旋回性能自体に機種別による大きな違いはなく、エンジン性能と翼面荷重に起因する誘導抵抗の大小が旋回性能を決定します。ジェット機の場合、コーナー速度に達するのがピストンエンジン機よりも容易であるため、旋回性能の制約要素が翼面荷重よりも機体の強度(最大何Gまで耐えられるか)やパイロットの肉体的限界に帰することが多いためです。その一方で比較的Gの小さい低速域では、依然としてWW2の戦闘機と同じく翼面荷重の小さな(所謂「小回りが効く」)機体が有利です。

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こうしてみると、精密さを気にしなければ、DiFやWLのような抽象度の高いゲームの方が現実に近いように感じるのは(他の分野の多くのゲームでも見られる現象とはいえ)皮肉なことのように思えます。私のような空戦ゲームファンの立場からは、Air Powerシリーズの再現性に興味をそそられるのですが、このゲームはプレイ時間がかかるのでおいそれとはプレイできないのがやや厳しい所です。

とはいえ、いつまでも「万年評論家」にはなりたくないので、Air Powerをちゃんとプレイしたいと思っています。


余談ですが、所謂「リアルタイム問題」(空戦ゲームの進行がリアルタイムよりも遅い)については、個人的には大きな問題とは思っていません。だって僕らは本物のパイロットとは違うのでパイロットと同じ時間軸で判断するのはハナから無理だと思っているから。ただし過大な時間リソースを要求するゲーム(Air Power、Fighting Wings等)については、やはり「何とかならんか」と思ってしまいます。


タイトルは"Wargame as an Academic Instrument"という論文のタイトルを私なりに訳したもので、英語に詳しい方なら眉をひそめるかもしれない。まあ決定的な誤訳ではないとは自負しているのだが・・・。

閑話休題。"Wargame as an Academic Instrument"は、英国で軍事戦略の教授であるPhlip Sabinという方が書かれた論文である。本論文は、"Zone of Control"という書籍に掲載されており、Amazonで購入可能なので、興味のある方は一読をお勧めしたい(結構ボリュームがあるので、私は流し読み程度しかできていないが・・・)。

ここで紹介されているのはウォーゲームを学術の現場(大学等)で有効活用する際の利点や問題点などで、中には実際にウォーゲームを用いて学生が授業中に対戦している様子も写真で掲載されていたりする。本論文を読んで興味を引いた点をいくつか列挙したい。

まず氏はウォーゲームを利用するグループを3種類に分類している。最初のグループはEnthusiast(趣味人)で、趣味としてゲームを愉しむ層である。人数的には一番多い(注1)。次のグループはMilitary(軍人)で、これは文字通りの軍人や民間の軍事アナリスト等が含まれる。ちなみにこの層では計算機利用のウォーゲームが主流になりつつあるが、紙ベースのウォーゲームが利用される機会も多い(注2)。そして第3グループがAcademic(学会)で、本書では第3グループでのウォーゲーム利用の可能性と問題点について論じている。

注1.ちなみに日本ではEnthusiastの視点だけでウォーゲームが論じられている傾向があるが、そろそろ視点を変えてみても良いのではないかと思う。
注2.プロユースのSimulatorといえば、計算機利用のものが殆どで、術科訓練以外に指揮統制や戦術・作戦分析にも電算機利用のSimulatorが広く用いられている。あくまでも私見だが、Simulatorといえば計算機利用が前提になるのに対し、Wargameといえば計算機を使う場合と使わない場合とがある、というのが欧米での定義らしい。

The Contribution of Wargames

ここで筆者は戦争(War)とゲーム(Game)との関係について論じ、クライゼヴィッツ、ルトワック等著名な戦略家と使って両者の相似性を示している。そして筆者は学術現場にウォーゲーム利用する利点として以下を取り上げている。
1点目。ウォーゲームは書籍等では無視されがちな要素の影響について見える化してくれる点がある。参加した陣営が取り得た選択肢は何か。勝敗を決定づけたのは時間、地形、兵力、士気、練度???。こういった疑問に答えてくれる。
2点目。ウォーゲーム参加者は相手プレイヤーとの相互関係の中で現実の戦略家と同じ決断を体験できる。また自らの決断の良否を相手との相互関係の中で確認できる。これは本を読む事では得られない。
そして3点目はウォーゲームが学生自身がデザインすることで多くを学ぶという点だ。ウォーゲーム自体は地図と駒があれば誰でもデザインできる。しかし特定の戦いについて調査し、重要なポイントを見極め、それをゲームという形に落とし込むには数週間、数ヶ月の時間を要する。この体験こそが学生に戦いについての理解を深める機会となる。

Manual vs. Computer Wargames

次に筆者は非電脳ゲームと電脳ゲームについて取り上げている。筆者は電脳ゲームと非電脳ゲームを対立要素としては見ておらず、それぞれ特質を使って併用している様が興味深い。バトルオブブリテンやヴェトナム空中戦をコンピュータとプロジェクタを使ってリアルタイムで実演できる電脳ウォーゲームについての記事は、ゲーマーならば興味を持つこと請け合いだ。

Teaching Wargame Design

ここでは学生にウォーゲームを実際にデザインさせて完成させるというカリキュラムを紹介している。テーマは古代戦から近未来戦まで学生が望むもの。筆者によれば、これまで100アイテム以上のゲームが完成し、その全てが自由にダウンロードできるとのこと。またそのうちのいくつかは実際に商用ゲームとして出版されているという。そして学生はデザイン体験を通じてウォーゲームが単なる娯楽ではなく極めてプロフェッショナルなツールであることを学ぶのである。

余談だが、筆者はここで「私のクラスで一番最近の学生は15名中7名が女性であった」として写真つきで紹介している。これについては羨ましいと思わなくもないが、それよりもわざわざ「女子がいるよ」と紹介するあたり、欧米でもウォーゲームは男の趣味だなぁとも感じた。

Practical Obstracles and Trade-offs

筆者は実施上の制約条件としてTime(時間)、Experties(専門知識)、Resorces(資源)の3つをあげている。
時間については、趣味人や軍人は1つのウォーゲームに数日かけてプレイするのも珍しくないが、学生に教える現場では1週間に2時間が許容範囲である。
私見だが、この問題については以前にある組織に所属する公務員の方ともお話したことがあり、例えばVictory in the Pacificのような簡単なゲームであっても、学生教育の現場に取り入れる場合はルールを簡略化する必要があったという。さらに私見だが、そういった観点から言えば現在数多く出版されている「簡単だけど奥が深い」ゲーム群も学生教育には全く不向きで、趣味人にとっては「何をして良いかわからないゲーム」は褒め言葉だが、学生教育に用いるにはガイダンスのないゲームは全く不向きと言える。

論文の方に戻ると、専門知識については、過去にウォーゲームについて全く経験のない学生がウォーゲームをプレイする際、その複雑さゆえに当惑や不快感を覚えることである。筆者によれば、この制約は時間的制約よりも深刻な問題だという。
この点についても同感で、特に「薄いルール=良いゲーム」と思っている人達と私との意見が合わない部分である。私は「ルールの量」よりも「現実との対応関係の明確さ」がより重要だと思う。だからパズルのようなウォーゲームを私は高く評価しない。またゲームシステムの「馴染みやすさ」も重要で、「さてルールは何とかわかったような気がしますが、私は一体何をすれば良いのですか」というゲームは初心者にとっては厳しいと思う。

資源というのは、要するに置き場所がないということ。過去数十年間発表されたウォーゲーム全部を保管するスペースは学生図書館にはないよ、ということである。そりゃそうだなわな。

これらの制約条件は、ウォーゲーム固有の要素である「再現性」と「決断」に起因していると筆者は言う。「再現性」を考えなければ「皆でチェスをすれば」良い。また「決断」を無視すれば誰かがプレイしたゲームの流れを動画で再現すれば良い。

これら制約条件に対する筆者の対策だが、まず時間制約については「自分でオリジナルの学生向けゲームをデザインする」という方法で解決したらしい。これは納得できる話である。
2つ目を飛ばして3つ目の対策はファシリテータの導入である。学生の多くはウォーゲームに未体験で、いきなり対戦機会に遭遇すると、海に投げ出された漂流者のような気分になる。そこでファシリテータが最初の決断をアドバイスし、学生がとんでもないミスで大敗するようなことを防いでいる。
いわゆるインスト議論だが、この際重要なことは「完璧な答えを教える」ことではなく「自力で答えを見つけることができる」ようにすることだと思う。「正しい正しくない」は二義的な問題に過ぎないと思うが、どうもインストを「正しい答えを見つけさせなければならない」と思っている人がいるようで、私と意見が合わない所である。

Stigma and Skepticism

ここではウォーゲームを教育で取り上げる上での情報制約や倫理面での問題が取り上げられているが、あまり興味を惹かなかったので省略する。

私なりの所感

以上、学生教育におけるウォーゲームの実践と制約、そして可能性について記した論文を紹介した。元々が英文でしかもかなりページ数が多いので、全部理解できたとは言い難い。上記の解説にもいくつか誤訳のようなものが含まれていると思う。私の解説を鵜呑みにしないで、興味を覚えて方は是非原著に触れて頂きたい。

日本では、自らの経験(だけ)に基づいてウォーゲームの価値を矮小化し卑屈化するような向きが見受けられる(所謂「ウォーゲームは滅びる」論)。個人的に何を考えようと個人の自由なのだが、私自身の考えを言えばウォーゲームの可能性は無限にあり、矮小化したり卑屈化する必要は全くないと考えている。


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