私本・太平記
吉川英治

戦前の史観では「大悪人」とされていた足利尊氏を主人公とした長編歴史小説である。足利尊氏以外にも、足利直義、高師直、佐々木道誉、赤松円心ら北朝側人物、後醍醐天皇を初め、日野俊基、楠木正成、新田義貞、護良親王、北畠顕家等の南朝側人物、さらには北条高時、赤橋守時ら鎌倉方の人物、吉田兼好、覚一法師といった民間人等も登場し、一大絵巻の如き様相である。これだけ登場人物が多いながらも読んでいて混乱しなくて読めるのは、さすがは吉川英治だと思えてしまう。
ストーリーは、若き日の高氏(尊氏)がお側役の一色馬之介を伴って京都にお忍びで旅行に来た所からスタートする。そこで彼は日野俊基や佐々木道誉といった彼の後の人生に大きく関わる人達と出会う。鎌倉に戻った高氏は、北条政権の下で密かに討幕の機会を伺う。やがて正中の変、元弘の変等の討幕運動を経て楠木正成が千早城で挙兵。それを鎮圧すべく鎌倉から大量の兵力が送られるが、正成の巧みな防戦によって千早城を落とすことができない。やがて幕府方の足利高氏、新田義貞らの寝返りによって鎌倉幕府は滅亡。北条高時や赤松守時も命を落とす。
その後は建武新政とその失敗を経て足利尊氏が再び朝廷から寝返った。楠木、北畠らの奮戦によって尊氏は一度は九州へ落ちのびたが、九州で兵力を再編成して再び東へ向かう。湊川の戦いで楠木正成が戦死。後醍醐天皇も京都を追われて、それから・・・。
かなり長編なので読み通すのは結構大変だが、その長さを感じないほど面白い。現在でも一級の面白さを持つ歴史小説と言えよう。
ちなみに本書を読んだ後、無性に「太平記」がプレイしたくなった。
お奨め度★★★★









