もりつちの徒然なるままに

ウォーゲームの話や旅の話、山登り、B級グルメなどの記事を書いていきます。 自作のウォーゲームも取り扱っています。

カテゴリ:読書 > SF

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グッドラック戦闘妖精・雪風

神林長平 早川書房

戦闘妖精雪風:グッドラック
『戦闘妖精・雪風』の続編として期待して読み始めたが、正直なところ前作ほどの面白さは感じられなかった。第1作で魅力的だったのは、戦闘機の精密なメカ描写や、息を呑むような空中戦の緊張感だった。雪風という機体そのものがキャラクターとして立ち上がり、深井零との関係性が戦闘行為を通して描かれることで、物語に強い推進力が生まれていた。
しかし本作では、その魅力が大幅に後退してしまっている。戦闘シーンは減り、メカニックの描写も控えめになり、シリーズの核だった“戦場のリアリティ”が薄れてしまった印象だ。代わって前面に出てくるのは、ジャムという得体の知れない存在の本質を探るための、哲学的・心理学的な議論である。もちろん、神林作品における思索的なテーマは魅力のひとつだが、今回はその比重があまりに大きく、物語のテンポを損ねているように感じた。
ジャムとは何か、人間とは何か、認識とは何か――こうした問いが繰り返し提示されるものの、議論は抽象的で、読者を置き去りにしたまま進んでいく場面も多い。前作で感じた「戦場に立つ人間と機械の緊張感」や「雪風という存在の異様な魅力」が、今回は霧の中に溶けてしまったようだ。シリーズの方向性として“解明”に向かうのは理解できるが、物語としての面白さよりも概念的な議論が優先されてしまった印象が強い。
続編として期待していただけに、今回の内容にはどうしても物足りなさが残る。筆者が描こうとした「人間と機械の境界」「異質な存在との接触」というテーマ自体は興味深く、シリーズ全体の大きな構想の中では重要な位置づけなのだろう。だが単体の作品として見たとき、前作の持っていた緊張感や興奮を期待すると、どうしても落差を感じてしまう一冊だった。

お奨め度★★★

戦闘妖精雪風<改> 戦闘妖精雪風:グッドラック 戦闘妖精雪風:アンブロークンアロー 戦闘妖精雪風:アグレッサーズ
戦闘妖精雪風:インサイト 戦闘妖精雪風:デザイナーズノート 戦闘妖精雪風(改):愛蔵版 2025年8月号:特集-駆逐艦「雪風」

4

戦闘妖精雪風(改)

神林長平 早川書房

戦闘妖精雪風<改>
本書を読むのは久しぶりだったが、相変わらず優れた作品だと思った。
本書を読んでいつも驚くのは、戦闘機同士の空戦描写の圧倒的な完成度である。神林長平の文章は、速度・機動・判断が一体となった空中戦の緊張感を、まるで“機械同士が会話している”かのような静謐さで描き出す。その精密さは、現用戦闘機同士の空戦場面と言われても全く違和感がないほどで、金属の意志が空を読み合うような独特の迫力がある。
さらに驚かされるのは、この作品が初出から約半世紀を経ているにもかかわらず、まったく古びていない点だ。人間と機械の関係、知性とは何かというテーマは、むしろ現代のAI時代にこそ鋭く響いてくる。
ただし、物語が後半に進むにつれてテクノロジーが高度化し、設定がより抽象的・概念的になっていく部分では、やや“嘘くささ”を感じてしまう瞬間もあった。前半の緻密なリアリティが素晴らしいだけに、その落差が少し惜しい。
それでもなお、雪風という機体の存在感、深井零との距離感、そしてジャムという異質な敵の不気味さは強烈で、読み終えた後も静かに余韻が残る。SFでありながら哲学的な問いを投げかける、稀有な作品だと感じた。

お奨め度★★★★


戦闘妖精雪風<改> 戦闘妖精雪風:グッドラック 戦闘妖精雪風:アンブロークンアロー 戦闘妖精雪風:アグレッサーズ
戦闘妖精雪風:インサイト 戦闘妖精雪風:デザイナーズノート 戦闘妖精雪風(改):愛蔵版 ドッグファイトの科学

4

新世界より(下)

貴志祐介 講談社

新世界より1~3
本書では、物語の核心が一気に爆発する巻であり、最終戦争から東京地下での探索、そして悪鬼との決戦まで、息つく暇もない緊迫感に満ちている。特に人間と禿ネズミの総力戦は、文明と文明が衝突する迫力ある描写の連続で、ページを繰る手が止まらなかった。また、東京の地下で早希たちが直面する未踏領域の恐怖や不可解なテクノロジーは、ディストピアSFとしての作品の奥行きを一気に深めている。
クライマックスの悪鬼との戦いでは、単なるバトルを超えた「倫理」「支配」「種の違い」といった重いテーマが読者に突き付けられる。圧倒的な力を持ちながら制御不能になった存在と、それに翻弄される人間社会。その構図は恐ろしくも悲しく、早希たちの苦闘が胸に迫る。

そして何より、人間と禿ネズミの関係が作品全体に深い影を落としている。支配する側とされる側という構造は、決してファンタジーの中だけの話ではなく、現実世界の差別意識や選民思想を思い起こさせる。禿ネズミの反乱は単なる敵の蜂起ではなく、「抑圧された者がついに声を上げた」歴史として読めてしまう。物語の迫力に没入しながらも、読み終えた後には静かで重い余韻が残り、考え続けずにはいられなかった。

お奨め度★★★★

新世界より1 新世界より2 新世界より3 新世界より1~3
天使の囀り クリムゾンの迷宮 ベートーヴェン捏造: 名プロデューサーは嘘をつく たかが殺人じゃないか

4

新世界より(中)

貴志祐介 講談社

新世界より2
この中巻は物語の大きな転換点として強烈な印象を残す巻です。表面上は秩序と安定が保たれているように見える社会が、実は倫理委員会による監視と記憶改ざんによって成り立っていることが次第に明らかになっていきます。危険な兆候を示す子どもは「不浄猫」によって密かに処分され、その存在すら人々の記憶から消されるという残酷な仕組みが描かれ、平和の裏に潜む不条理が浮き彫りになります。
この巻では、仲間の一人が「業魔」と化し、自らの命を絶つことで町を守ろうとする場面が特に印象的です。彼の自己犠牲は、呪力という「神の力」が持つ恐ろしさを象徴すると同時に、社会の脆さを示す出来事でもあります。また、守と真理亜が町を逃げ出し、行方不明となる事件は、友情と信頼が崩れていく痛みを伴いながら、物語をさらに緊張感の高い方向へと導いていきます。
主人公の早季は、仲間を次々と失いながらも、社会の暗部と向き合い、葛藤を抱えつつ成長していきます。悲しみや恐怖に揺れながらも、彼女は強さを示し、倫理委員会議長の富子から後継者に指名されるほどの精神的成熟を遂げます。この「矛盾に満ちた世界で葛藤しながらも前に進む姿」が、早季という人物の最大の魅力であり、読者に深い共感を呼び起こします。
中巻を読み終えると、社会の真実と人間の本質に迫る物語がいよいよ最終巻へと収束していく予感が強まり、結末への期待と不安が一層高まります。友情と喪失、秩序と犠牲、理想と現実が交錯するこの巻は、シリーズ全体の中でも特に重厚で考えさせられる部分だと言えるでしょう。

お奨め度★★★

新世界より1 新世界より2 新世界より3 新世界より1~3
天使の囀り クリムゾンの迷宮 月下のサクラ 慈雨

4

新世界より(上)

貴志祐介 講談社

新世界より1~3
1000年後の日本を舞台にしたSF小説。人類は「呪力」を得て争いをなくしたが、その裏で自由や個性が失われていた。人工知能との出会いを通じ、主人公たちは社会の闇を知る。静かな美しさと不穏さが共存する名作。#SF小説 #読書記録

本書は1000年後の日本を舞台にしたSF小説である。そこに登場するのは宇宙戦艦でもロボットでもない。むしろ、電気すら満足に使われていないその世界は、現代よりも退化したようにさえ見える。だが、人類は「呪力」と呼ばれる念動力を手に入れ、それを制御することで戦争のない社会を築いていた。自然と調和し、争いのないユートピア――表面上はそう見える。
しかし、物語が進むにつれて、その平和の裏側に潜む亀裂が次々と明らかになる。子どもたちは「全人学級」で呪力の訓練を受けるが、少しでも異常があれば“消される”という暗黙の恐怖が常に付きまとう。主人公と仲間たちは、偶然出会った人工知能から禁断の知識を得てしまい、社会の成り立ちや人類の過去の暴力性を知ることになる。その瞬間から、彼らの運命は大きく揺れ始める。
この作品が印象的なのは、静かで美しい風景の中に、圧倒的な緊張感と不穏さが漂っている点だ。呪力という力を得た人類は、確かに戦争を終わらせたかもしれない。しかしその代償として、自由や個性、そして真実を犠牲にしている。管理社会の恐怖、記憶操作、選別――それらは現代にも通じるテーマであり、読者に深い問いを投げかけてくる。
また、バケネズミという異種族との出会いも、物語に新たな視点を与えてくれる。彼らは人間を「神」として崇め、人間に従属している。しかし独自の文化と軍事力を持ち、まるで戦国時代のような同族間の抗争を繰り広げている。
本書は、単なるSFではない。人間とは何か、社会とは何か、進化とは何か――そうした根源的な問いを、物語の中で静かに、しかし確かに突きつけてくる。読み進めるほどに、心の奥底がざわつき、ページをめくる手が止まらなくなる。続巻を読まずにはいられない、そんな力を持った作品だった。
早くも続きを読みたくなる一冊だ。

お奨め度★★★★

新世界より1 新世界より2 新世界より3 新世界より1~3
天使の囀り クリムゾンの迷宮 震える天秤 銀河英雄伝説1

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