もりつちの徒然なるままに

ウォーゲームの話や旅の話、山登り、B級グルメなどの記事を書いていきます。 自作のウォーゲームも取り扱っています。

カテゴリ:読書 > 小説

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同士少女、敵を撃て

逢坂冬馬 早川書房

同士少女よ、敵を撃て
WW2でのソ連を舞台にした戦争文学でありながら、骨太なドラマと鮮烈な人物描写が光る傑作です。
本作の最大の魅力は、戦闘場面の描写にあります。狙撃戦の緊張感、極限状態での判断、そして兵士として生きることの過酷さが、圧倒的なリアリズムで描かれています。ただのフィクションにとどまらず、史実に裏打ちされた描写の数々が、物語に強い説得力と深みを与えています。特に、女性兵士たちの生き様が真正面から描かれており、戦争とジェンダー、国家と個人というテーマが重層的に絡み合っている点も印象的でした。
また、登場人物たちの心の動きが丁寧に描かれており、彼女たちの怒りや悲しみ、そして希望までもが読者にじわじわと迫ってきます。言葉は抑制されながらも、そのぶん感情の温度が確かに伝わってくる文体にも惹かれました。
ただ、最終章についてはやや異なる印象を受けました。それまでのリアリスティックな構成と比べると、ややトーンが異なり、まとまりに欠けるようにも感じられます。一種の飛躍とも言える展開が、読み手によって評価の分かれる部分かもしれません。
とはいえ、この作品が現代の日本文学の中で極めて高い完成度を持っていることに疑いはありません。戦争小説としてだけでなく、人間ドラマとしても読み応えのある一冊でした。多くの人に読まれてほしい、心に残る作品です。

お奨め度★★★★


同士少女よ、敵を撃て 同志少女よ、敵を撃て 1 戦争は女の顔をしていない 独ソ戦全史: 「史上最大の地上戦」の実像 戦略・戦術分析
パンツァー・オペラツィオーネン――第三装甲集団司令官「バルバロッサ」作戦回顧録 独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 独ソ戦大全 燃える東部戦線

4

華麗なる一族

山崎豊子 新潮文庫

華麗なる一族(合本)
山崎豊子の『華麗なる一族』は、単なる財閥一家の物語ではなく、父と子の断絶、欲と権力にまみれた社会構造、そして「正しさ」が踏みにじられる理不尽な現実を鋭く描いた壮絶なドラマである。

本作を読んで最も強く印象に残ったのは、万俵大介という人物の非情なまでの冷酷さと、人間としての薄汚さである。彼は一見、経済人としての手腕に優れ、家族を養う責任ある父のように見える。しかしその実態は、自己保身と権力維持のために、血の繋がった子すらも手段として使い捨てる男である。息子・鉄平の心からの訴えに耳を貸すこともなく、むしろその真っ直ぐさを疎ましく思い、追い詰めていく姿は、あまりにも非道だった。

さらに、愛人・相子の存在が万俵家をさらに歪めていることも見逃せない。相子は本来、家に仕える身であるはずが、大介の後ろ盾を得て居丈高に振る舞い、万俵家の「女主人」然とした態度で家族を支配していく。正妻・寧子を見下し、娘たちには遠慮なく口を出し、何より鉄平の存在を最も嫌悪し、徹底して排除しようとするその態度は、もはや「図々しい」を通り越して「邪悪」ですらあった。

一方、鉄平は本作の中で最も誠実で、最も現代的な価値観を持った人物である。ものづくりの現場を大切にし、社員や社会への責任を真剣に考える姿には、読者として深く共感せずにはいられない。しかし、彼のまっすぐな生き方は、利権と打算に満ちた万俵家の論理にはそぐわず、最終的に彼は父や社会の都合によって追い詰められてしまう。その結末はあまりに理不尽であり、読み終えた今も胸に重くのしかかっている。

『華麗なる一族』は、華やかな表舞台の裏にある暗部を描いた作品だが、そこに込められた人間ドラマは普遍的である。金や権力を持つ者が正義になってしまう世界で、「正しさ」とは何なのか――鉄平の苦悩と悲劇を通じて、読者に深く問いかけてくる。読むほどに怒りと悲しみが湧き上がる、まさに“壮絶”な一冊だった。

お奨め度★★★★


華麗なる一族(合本) 華麗なる一族(上) 華麗なる一族(中) 華麗なる一族(下)
沈まぬ太陽1-5 不毛地帯1~5 白い巨塔1 二つの祖国1


沈まぬ太陽5-会長室編(下)

山崎豊子 新潮文庫

沈まぬ太陽5
JALの御巣鷹山墜落事故をテーマとした小説で、この第5巻が最終巻である。前巻で利根川総理からの三顧の礼でNAL会長に就任した国見正之だが、労使間の対立をまとめることができず、次第に苦境に立たされる。会長室の部長職に就任していた主人公恩地元はNAL社内での不正な金銭の動きを追うが、そのことが逆に政府・マスコミの反感を買う。政府の支援を得られないと悟った国見は、遂に最後の決断をする。
とまあこんな感じで、テーマは御巣鷹山事故の後もJALを巣食っている腐敗と、それと戦う主人公たちという構図になっている。最終的に主人公たちは敗れるのだが、そこに筆者の無念さと怒りを感じる。
ただ、本書はあくまでも小説である。主人公の恩地や国見会長にはモデルになった人物が実在しているが、彼らに対する評価も毀誉褒貶がある。さらに主人公たちの視点から描いた小説なので、相手側の視点が欠落している感がある(自分が悪人だと大っぴらに主張する人間はいないので、著者の言う「インタビュー」の対象に本書で「悪人」とされている人々は含まれないと考える)。そういった意味で本書はあくまでも小説として楽しむのが正しい楽しみ方だと思う。

お奨め度★★★



沈まぬ太陽1 沈まぬ太陽2 沈まぬ太陽3 沈まぬ太陽4
沈まぬ太陽5 沈まぬ太陽1-5 華麗なる一族(合本) 不毛地帯1~5


沈まぬ太陽4-会長室編(上)

山崎豊子 新潮文庫

沈まぬ太陽4
JALの御巣鷹山墜落事故をテーマとした小説で、この第4巻では事故発生後のNAL(JALの本小説での会社名)の立て直しを扱う。NALの経営立て直しと事故後の事態収拾にためにNAL会長に就任した国見正之は、分裂したNAL労組を1つにまとめるため、遺族係を担当していた主人公恩地元を会長室に迎え入れる。そして国見と恩地はNALの立て直しに奔走するが、旧勢力の抵抗により思うように改革が進まない。そんな中、御巣鷹山では事故から1周忌を迎え、遺族たちによる慰霊登山が行われようとしていた。 とまあこんな感じの第4巻だが、相変わらず極端な勧善懲悪が気になる所だ

お奨め度★★★


沈まぬ太陽1-5 沈まぬ太陽1 沈まぬ太陽2 沈まぬ太陽3
沈まぬ太陽4 沈まぬ太陽5 不毛地帯1~5 華麗なる一族(合本)

4

沈まぬ太陽3-御巣鷹山編

山崎豊子 新潮文庫

沈まぬ太陽3
これまではNAL(Nation Air Line = 国民航空)での労働争議とそれに起因する人事問題がメインテーマであったが、この第3巻はNAL123便のジャンボ機が御巣鷹山に墜落し、520人が死亡するという大惨事と、その後の遺族たちの苦しみやNAL社員や関係者との確執がメインテーマとなる。なお、本書でNALという航空会社が、実在のJAL((Japan Air Line)をモデルにしていることは言うまでもない。
これまでは、主人公恩地元の会社との確執と恩地自身の苦しみが主なテーマであったが、本巻では実際に起こった大事故(1985年8月日航ジャンボ機の御巣鷹山墜落事故)がテーマになっているだけに、恩地だけではなく様々な登場人物が登場する。その中には実際の御巣鷹山事故関係者が実名で登場しており、現実と小説との境界がいよいよ曖昧になってきている。
とはいえ、本書における筆者の筆致は冴えわたり、事故発生場面や事故直後の救難活動、生々しい遺体確認の場面は、豊富な取材に基づくリアリティを感じる部分だ。また事故原因に関する考察についても十分に納得できるもので、あくまでもリアリティに拘った小説作りを感じる部分であった。

お奨め度★★★★


沈まぬ太陽3 沈まぬ太陽1 沈まぬ太陽2 沈まぬ太陽1-5
不毛地帯1~5 華麗なる一族(合本) 白い巨塔1 二つの祖国1

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