もりつちの徒然なるままに

ウォーゲームの話や旅の話、山登り、B級グルメなどの記事を書いていきます。 自作のウォーゲームも取り扱っています。

カテゴリ:読書 > 小説


後悔病棟

垣谷美雨 小学館

後悔病棟 テンポよく読ませる物語である。舞台は末期治療を扱う病棟。患者たちの「後悔」を通して、自分の生き方や週末の過ごし方まで考えさせられる一冊だった。後悔を聞き取る聴診器という設定はユニークで、登場人物の人生の岐路が次々と浮かび上がってくる。
ただ、その一方で舞台設定があまりにファンタジックで、扱っている テーマの重さと噛み合わない場面もあった。シビアな人間ドラマなのか、おとぎ話なのかが判然とせず、「大人の読者を少し軽く見ているのでは」と感じる瞬間もある。
それでも、夢や家族、結婚、友情といった後悔の形はどれも身近で、読者自身の人生に自然と重ね合わせてしまう。軽さと重さが同居する独特の読後感を残す作品だった。

お薦め度★★★

後悔病棟 ベートーヴェン捏造: 名プロデューサーは嘘をつく ツバキ文具店 家康、江戸を建てる


成瀬は都を駆け抜ける

宮島未奈 新潮社

成瀬は都を駆け抜ける 成瀬シリーズ第3弾。読んでいて非常に楽しい小説だった。主人公の成瀬あかりは相変わらず独特で、常識にとらわれない行動力と、妙に筋の通った思考で周囲の人々を巻き込んでいく。その姿は痛快で、ページをめくる手が止まらない。京都の街を舞台に、成瀬が様々な人と関わりながら動き回る様子は軽快で、読後感もとても爽やかだった。
一方で、読んでいて少し気になったのは、物語の展開がやや予定調和的に感じられる点である。成瀬の行動は一見突飛なのだが、結果として物事がうぼく回り、周囲の人々もどこか前向きになっていく。もちろんそれがこの作品の魅力でもあるのだが、もう少し意外性や衝突があってもよかったではないか、という気もした。 興味深いのは、アドラー心理学の考え方と成瀬の生き方の間に、ある種の共通点が見えることである。成瀬は他人の評価に過度に振り回されず、自分が正しいと思う行動を淡々と選び取っていく。また、周囲の人間関係も支配や依存ではなく、対等な距離感で築かれているように見える。アドラー心理学で語られる「他者の課題と自分の課題を分ける」という姿勢や、「共同体感覚」に通じるヨ分があるように感じた。 そう考えると、この作品の心地よい読後感は、単なるコメディ的な楽しさだけではなく、成瀬という人物の持つある種の思想的な強さから来ているのかもしれない。軽快なエンターテインメントでありながら、読み方によっては現代的な生き方のヒントも感じさせる作品だと思う。

お奨め度★★★

成瀬は天下を取りに行く 成瀬は信じた道を行く 成瀬は都を駆け抜ける るるぶ 滋賀 びわ湖 長浜 彦根 '27


黒い家

貴志祐介 角川ホラー文庫

黒い家
本書を四半世紀ぶりに読み返した。結論から言えば、やはり面白い。そしてその「面白さ」は、単なる懐かしさではなく、作品そのものの強度によるものだと改めて感じた。
1990年代後半という時代背景は、さすがに今読むとやや古さを感じる。携帯電話やインターネットの扱い、保険業界の描写など、現代とは隔たりがある。しかし、それは物語の核心をまったく損なわない。むしろ、舞台装置が多少変わろうとも、人間の本質は変わらないという事実を浮き彫りにしているように思える。
本書の恐怖は幽霊や怪異ではない。理屈も良心も通じない「人間」の存在そのものだ。善悪の基準を共有しているという前提が崩れたとき、社会的な制度や常識はどれほど無力になるのか。保険制度という合理的な仕組みが、逆に悪意の温床となり得るという皮肉も、今読んでもなお鋭い。
四半世紀という時間を経て再読すると、若い頃とは違う感覚もあった。当時はただただスリリングな展開に圧倒されていたが、今回は主人公の心理の揺れや、日常が侵食されていく過程の丁寧さにより強く引き込まれた。恐怖の描写が派手なのではなく、静かに、しかし確実に追い詰めていく構成の巧みさが際立つ。
そして何より、「人間の本質は変わらない」という実感が残った。社会は変わり、技術は進歩し、価値観も移ろう。しかし、欲望や悪意、そしてそれに対する恐怖は、時代を越えて普遍なのだと気づかされる。
再読に耐えるどころか、再読によってむしろ深みが増す作品だった。四半世紀を経ても色褪せないどころか、今なお読者の神経を静かに締め上げる力を持つ一冊である。


お奨め度★★★

黒い家 天使の囀り クリムゾンの迷宮 新世界より1~3
たかが殺人じゃないか 落日 火車 理由

3

クリムゾンの迷宮

貴志祐介 角川ホラー文庫

クリムゾンの迷宮
本作は約20年前に一度読んだ記憶があるが、細かい展開や結末はほとんど忘れていたため、今回あらためて新鮮な気持ちで楽しむことができた。記憶喪失の状態で始まる導入から、参加者が次々と脱落していく過程まで、終始ハラハラドキドキさせられ、ページをめくる手が止まらない。読者を引きずり込む構成力はさすがで、純粋なエンターテイメントとしては一級品だと感じた。

一方で、舞台設定やゲームの仕組みには、ややご都合主義に思える部分もある。しかしその荒唐無稽さがあるからこそ、物語はテンポを失わず突き進み、終盤の真相とオチが強い印象を残す。現実味を削ってでも「読ませる」ことを優先した判断が、結果的に成功していると言えるだろう。

理屈よりも感情を揺さぶるタイプの作品であり、細部の整合性を気にしすぎず、物語の流れに身を任せて読むことで、本作の持つ面白さが最大限に味わえる一冊だとあらためて感じた。

お奨め度★★★

クリムゾンの迷宮 天使の囀り 新世界より1~3 黒い家

3

鉄の骨

池井戸潤 講談社文庫

鉄の骨
池井戸潤の小説はこれまで何作か読んできたが、いずれも高い完成度と読み応えがあり、総じて満足度の高い作品ばかりだった。特に空飛ぶタイヤの重厚な告発劇、俺たちの箱根駅伝の爽やかな群像描写、そして半沢直樹シリーズの痛快さは、いずれも傑作だと思っている。
そうした期待を持って読んだ『鉄の骨』だが、今回は正直に言って、そこまで楽しめなかった。談合という題材そのものは興味深く、社会派小説としての問題提起も明確なのだが、読後に残る印象はやや淡白だった。
特に物足りなさを感じたのが恋愛パートである。主人公・富島平太と恋人・野村萌の関係は、物語の中盤に入った時点で行き着く先がほぼ見えてしまい、意外性や緊張感に欠けていた。物語の流れから考えれば自然な展開ではあるものの、「やはりそうなるか」という予想通りの結末に向かって淡々と進むため、読み手としては退屈さを覚えてしまった。
加えて、主人公である平太自身にも強い魅力を感じにくかった点は否めない。彼は現実的で等身大の人物として描かれているが、その分、読者の心を強く引きつける決断力やカリスマ性に欠けている。彼の葛藤は理解できるものの、応援したくなるほどの感情移入には至らなかった。
『鉄の骨』は、勧善懲悪や爽快な逆転劇を意図的に排し、組織に生きる人間の弱さや曖昧さを描いた作品である。その姿勢自体は評価できるが、これまでの池井戸潤作品に感じてきた高揚感や読後の快感を期待すると、やや肩透かしを食らったというのが率直な感想である。

お奨め度★★★


鉄の骨 陸王 空飛ぶタイヤ ノーサイド・ゲーム
下町ロケット(1) 下町ロケット(2) 俺たちの箱根駅伝(上) 俺たちの箱根駅伝(下)
半沢直樹1 半沢直樹2 半沢直樹3 半沢直樹4-銀翼のイカロス

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