同士少女、敵を撃て
逢坂冬馬 早川書房
WW2でのソ連を舞台にした戦争文学でありながら、骨太なドラマと鮮烈な人物描写が光る傑作です。
本作の最大の魅力は、戦闘場面の描写にあります。狙撃戦の緊張感、極限状態での判断、そして兵士として生きることの過酷さが、圧倒的なリアリズムで描かれています。ただのフィクションにとどまらず、史実に裏打ちされた描写の数々が、物語に強い説得力と深みを与えています。特に、女性兵士たちの生き様が真正面から描かれており、戦争とジェンダー、国家と個人というテーマが重層的に絡み合っている点も印象的でした。
また、登場人物たちの心の動きが丁寧に描かれており、彼女たちの怒りや悲しみ、そして希望までもが読者にじわじわと迫ってきます。言葉は抑制されながらも、そのぶん感情の温度が確かに伝わってくる文体にも惹かれました。
ただ、最終章についてはやや異なる印象を受けました。それまでのリアリスティックな構成と比べると、ややトーンが異なり、まとまりに欠けるようにも感じられます。一種の飛躍とも言える展開が、読み手によって評価の分かれる部分かもしれません。
とはいえ、この作品が現代の日本文学の中で極めて高い完成度を持っていることに疑いはありません。戦争小説としてだけでなく、人間ドラマとしても読み応えのある一冊でした。多くの人に読まれてほしい、心に残る作品です。
お奨め度★★★★












