「Littoral Commander - INDO-PAIFIC」(以下、本作)は、The Dietz Foundationが2023年に出版したシミュレーション・ウォーゲームである。テーマは現代及び近未来に予想される沿岸作戦。沖縄近海、台湾、北部フィリピン及びシンガポール周辺を舞台とする米国と中国の局地的戦闘を扱っている。
Hex、Turn制のゲームシステムを採用しており、1Hexは実際の約17km、1Turnのスケールは不明だが、半日~1日程度と推測する。1ユニットは小隊規模の地上部隊又は1隻の水上戦闘艦を表している。ゲームシステムは全般的にシンプルなものになっているが、地上部隊同士の戦闘だけではなく、ミサイル等を使用した長距離打撃とミサイル迎撃、航空偵察や航空支援、潜水艦攻撃等もシステムに盛り込まれている。
1Turnは複数のインパウスよりなり、米中両陣営が交互にインパルスを繰り返す。各インパルスでは1つのタスクフォースが活性化し、全てのタスクフォースが1回活性化し終えるとTurnが終了する。
各インパルスでは3アクションポイント(AP)を使用でき、1APで1スタックの活性化か1枚のカードプレイができる。スタック制限は特にないのでAPを有効活用したい場合はハイスタックの方が有利だが、サイバー攻撃でまとめて無力化するリスクがあるので、過剰なハイスタックはハイリスクである。
そしてこのゲームを特徴づけているのは仮想空間における戦い、いわゆるサイバー戦である。サイバー戦はカードによって表現されているが、その威力は強力で、敵のスタックを一時的に無力化したり、敵長距離兵器の性能を一斉に低下させたりとやりたい放題。特に中国軍のサイバー戦能力は強力であり、米軍はその対策に頭を痛めることになるだろう。
サイバー戦の所でも触れたが、本作では大量のカードを使用する点に特徴がある。サイバー戦だけではなく、ドローンの使用や無人戦闘車両による支援、古典的な航空爆撃(B-52やB-2等)、戦闘機による戦闘空中哨戒等もカードで表現されている。ゲーム開始時にプレイヤーは与えられたポイントの中からカードを「購入」することになるのだが、これが結構難しい。なんせ100枚以上のカードから自身に最適なカードを選ばなければならない。このゲーム、サイバー戦以外でも敵を発見するための索敵系カードや特殊兵器カードが重要な場合がある。慣れればカード選びが楽しくなってくるのだろうが、正直、そこまでの域には到達できなかった。
今回、本作をプレイしてみたので、その概要を紹介する。ちなみに全てのシナリオで筆者は米軍を担当した。
シナリオ1.Meeting Ebgagement
このシナリオは、米海兵沿岸連隊(Marine Littoral Regiment)のタスクフォースと人民解放軍海兵隊のタスクフォースが、ルソン島北部で遭遇戦を行う場面を想定したシナリオである。両軍ともタスクフォース規模の地上部隊と駆逐艦各1隻が登場する。このシナリオは陸上戦闘と長距離打撃戦の進め方を理解するには最適のシナリオである。登場するユニット数も少なく、ターン数も短いので、本作のシステムを学ぶには最適のシナリオと言える。
シナリオ2.Luzon Pass
このシナリオはルソン海峡を巡るシナリオで、中国軍は歩兵を中心とした地上部隊と戦闘艦4隻、揚陸艦1隻からが登場し、米軍はHIMARSを装備した海兵沿岸連隊タスクフォースが登場する。ちなみに本作では、対地ミサイルと対艦ミサイルの区別はなく、ATACMSで艦船攻撃が可能だし、Tomahawkは対地対艦両用になっている。中国軍もまた同じ。確かに時代はそういった方向に向かいつつあるとは思うが、現時点で対地/対艦ミサイルが完全にコンパチブルというは、ちょっとやり過ぎのように思えてくるのだが…。このシナリオは、中国側が水上部隊によるルソン海峡突破を目指し、米側はその阻止を図る。米海兵隊は水上部隊を持たず、地上部隊で中国側水上部隊を阻止しなければならない。米側は海峡を挟む形で海兵隊を配置し、HIMARS装備の砲兵部隊で中国艦隊の撃破を狙った。
しかしこの配置は失敗だった。ルソン島北部に配置した米海兵隊は、優勢な中国軍歩兵部隊の攻撃を受けてその威力を発揮する間もなく一掃されてしまう。
これは遺憾と泣きを入れてやり直し。
今度は海兵隊を全てルソン海峡の島々に配置した。これにより中国軍歩兵部隊によって海兵隊が殲滅されることはなくなった。これで海峡突破を図る中国艦隊の阻止を図る。ドローンを使った索敵で中国艦隊を発見し、HIMARSがATACMSをぶっ放す。さらにカードでトマホークや長射程ミサイルを購入し、中国艦隊を撃ちまくり。
水上艦4隻を撃沈して残りは揚陸艦1隻のみまで追い詰めたが、その1隻が海峡突破に成功したので、中国側の勝利となった。
シナリオ3.Red Tide
このシナリオは、沖縄方面に物資輸送を行う米海軍とその阻止を図る中国海軍の戦いを描いている。米軍の戦力はミサイル駆逐艦3隻、中国側は潜水艦3隻である。本作での潜水艦はマップ上に登場せず、水中を自由自在に走り回って水上艦を攻撃できる。そう考えると潜水艦は無敵に思えるが、攻撃を試みると発見されるし、魚雷攻撃を試みると、水上艦の反撃で返り討ちに遭う可能性もあるので、油断はできない。沖縄北方に配備された米艦隊に対して中国側潜水艦がミサイル攻撃を実施。駆逐艦1隻に命中を与えたものの、これを撃沈するには至らず。それに対して米軍はイベントカードで購入したP-8哨戒機で潜水艦の潜伏海域を攻撃。3隻の潜水艦を全て発見、これを撃沈した。このシナリオは、セットアップ40分、プレイ時間20分で終了した。
シナリオ4,King of the Straits
時間がまだあったので、シナリオをもう1本プレイすることにした。このシナリオはマラッカ海峡におけるプレゼンスを争うシナリオで、米軍はミサイル駆逐艦4隻と海兵沿岸連隊タスクフォースの混成部隊。対する中国軍は水上戦闘艦8隻と揚陸艦2隻である。シナリオの勝利条件は、マラッカ海峡に多数の艦船を展開させることである。序盤のミサイル戦、艦対艦戦闘ではミサイル性能に勝る米艦隊が中国艦隊を圧倒し、味方の損害なしで敵駆逐艦4隻を撃沈した。
対艦、対空ミサイルを撃ち尽くした米艦隊は中国側残存艦隊の反撃を避けるために南シナ海北部に後退していく。一方、マラッカ海峡の入口に残っていた中国中国側の残存艦隊に対しては、マレー半島南部に布陣した米海兵連隊戦闘団が、HIMARSから発射するATACMSやトマホーク巡航ミサイル、長距離ミサイル、さらにカードで購入した原子力潜水艦などで中国艦隊を攻撃する。
一連の攻撃で計5隻の中国艦を撃沈したが、最後の1隻が損傷しながらも最終Turnにマラッカ海峡に進入したので、勝利条件的には米側の敗北に終わった。
感想
サイバー攻撃やドローン、無人車両の活用など、現代戦らしいといえば現代戦らしいゲームといえる。歩兵や戦車部隊も登場するが、それよりもミサイル部隊や防空部隊の方が主役というのも異例である。とはいえ、これが果たして現代戦の本当の姿なのかといえば、疑問なしとはしない。先にも書いたが、本作では対艦ミサイルと対地ミサイルが完全に統合されていて、両者は自由に使い分けることができる。しかし実際の兵器体系では、まだまだミサイルの完全な統合化が実現していないのが実情と思える。さらにこの種のミサイル兵器は重要目標に対する攻撃にこそ威力を発揮するものの、歩兵部隊のように広く散開した目標を有効に攻撃できる兵器ではない。広く散開した歩兵を制圧又は破壊するための兵器は昔ながらの火砲や安価なロケット弾であり、高価な精密誘導兵器ではない。
本作ではそのあたりが区別されておらず、歩兵小隊に対して戦術トマホークを打ち込んで撃破するという運用になるが、果たしてそれが本当に「現代戦」なのだろうか?。
ゲームシステムは索敵を重視したものになっており、索敵で敵を発見することが地上戦でも重視される。そして敵を先に発見した場合、攻撃側の歩兵部隊は一方的に防御側を殴ることができる。しかし実際の地上戦闘で、攻撃側が何の抵抗もなく防御側を一方的に殴り続けることができるのだろうか?。砲火力による遠戦ならとにかく、歩兵部隊同士の接近戦で攻撃側が一方的に防御側を殴り続けるという構図は正直理解に苦しむ。
さらにいえば、塹壕等の防御施設の利用や地形効果についてもほぼ完全に無視されており、ハイテク兵器に対する偏重と相まってバランスを欠いているという印象を持つ。
総じていえば、本作は冷戦時代における「現代戦」とは、全く異なる「21世紀型現在戦」の再現を目指した作品と言える。本作がその目的を達成しているか否かは各人意見が分かれる所だろう。筆者は上記に示した通り、本作について違和感を持ったが、Board Game Geek等の評価を見ると、本作が高い評価を得ていることがわかる。
あとは各人が実際にプレイしてみて、本作の意義を確かめて頂きたい。