もりつちの徒然なるままに

ウォーゲームの話や旅の話、山登り、B級グルメなどの記事を書いていきます。 自作のウォーゲームも取り扱っています。

カテゴリ:ゲーム > 作戦級ゲーム

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コマンドマガジン Vol.181『北海道侵攻』 「北海道侵攻」は、2025年に発売されたコマンドマガジン181号の付録ゲームで、1990年代にソ連軍が北海道に侵攻したケースを扱った仮想戦ゲームだ。元々は1988年に翔企画からSSシリーズの1作品として発売された同名作品のリメイク版である。今回のコマンドマガジン版には、SSゲームに含まれていた北海道の地上戦ゲーム以外に、北海道周辺での海上戦闘を描いた「パシフィックヒート」も含まれている。

今回は、その中から地上戦ゲームをソロプレイしてみた。なお、「北海道侵攻」の地上戦ゲームを以後「本作」と呼称する。

まず本作の基本システムを説明する。
RU_342_DTR_765本作は北海道での日ソ両軍の地上戦闘を扱っていて、1Hex=約30km、1Turnは実際の1日に相当し、1ユニットは1個連隊または旅団相当である(一部大隊または師団規模あり)。基本システムは移動と戦闘の繰り返しで、ZOCは侵入即停止、ZOCtoZOCは1Hex移動のみ可。注意点としてZOCから離脱したユニットは、そのTurn中にZOCへ再侵入できない(これは実際のプレイで結構忘れていたかも・・・)。

JP_2_3CT_555地上戦闘は比率方式のMay Attack。要注意点としてソ連軍は複数の師団が同じ攻撃に参加できない。これが兵力でSDFを圧倒しているハズのソ連軍の足を引っ張ることになる。また地形効果はダイス修正だが、特に荒れ地の防御効果が結構デカイ。戦闘結果は攻撃側と防御側への損害ステップ数として与えられるが、後退を選択すれば損害ステップ数はチャラにできる。とはいえ戦闘後前進が2Hex認められるので、損害を嫌って後退ばかりしていると、他の友軍部隊が包囲されてしまうことにもなりかねない。さらに先にも述べた通り荒れ地の防御効果が大きいので、防御地積に限りのあるSDF側は泣く泣くステップロスで土地を死守するような展開になる。対するソ連軍も、相手を後退させないために自身の損害を耐えつつ現時点に踏みとどまる必要がある(攻撃側が後退してくれたら、防御側が後退しても戦闘後前進を食らわないので安心)。なお敵ZOCを通過する後退は、たとえそのHexに友軍ユニットが存在していても禁止である。

注:ルールブックを読めば、攻撃側が退却した場合でも戦闘後前進できるようにも読めるが、常識的に考えて攻撃側が退却しなかった場合のみ戦闘後前進を認めるとすべきだろう。

Z_Empty補給ルールは補給線を引く方式で、自身の支配する港湾が補給源となる。SDFは地形や距離に関わらず補給線を引けるが、ソ連軍は道路沿いにしか補給線を引けず、補給下の道路に隣接している場合のみ補給下となる。逆にいえば道路から2Hex以上離れたら補給切れになる。これが結構厳しい。また敵ZOCによって補給線は遮断されるが、友軍ユニットの存在によって敵ZOCを中和することはできない(このあたりは古いゲームっぽい)。
補給切れのユニットはZOCを失い、攻撃禁止、移動は1Hexのみ可能だが、味方補給源に近づくように移動しなければならない。なお、第6Turnまでのソ連軍は補給切れを無視できる。

JP_201TFS_2AW_710ここまでが地上戦ルールだが、本作には航空戦ルールもある。航空戦は制空戦闘と対地攻撃の2種類がある(他に対船団攻撃も可能だが、攻撃成功率を考えると対地攻撃の方が明らかに「美味しい」)。制空戦闘は相応の航空ユニットが1対1で空中戦を行い、空戦結果表で相手の空戦値以上の結果が得られればステップロスできる。制空戦闘に投入できるユニット数は両軍とも最大6ユニットで、戦闘の組み合わせはSDF側が決めることができる(この点でSDF側はほんの少しだが有利と言える)。空戦自体は無制限ラウンド制なので、どちらかが撤退を宣言するか全滅するまで続くことになる。

RU_11FBR_140対地攻撃は目標Hexを指定し、出目が対地攻撃値以下なら目標が1ステップする。対地攻撃のダイス目は制空権の有無や天候によって増減し、修正前または修正後のダイス目が6以上なら攻撃を行った航空機がステップロスする。なお対地攻撃に投入できる航空ユニットは最大6ユニットなので、特にゲーム終盤の西側陣営は仕事にあぶれた航空機が溢れてくることになる。

とまあ、こんな感じだが、取りあえずゲームを始めてみよう。

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1Turn

RU_1FR_1FD_700まず航空戦である。ソ連軍は6ユニット、SDFも6ユニットを制空戦闘に投入した。結果は両方とも3ステップずつを失う。SDFが空戦を切り上げたので、ソ連空軍が制空権を獲得した。SDFが空戦を切り上げた理由は、第1Turn特別ルールでソ連空軍に有利なDRMが適用されるためである。

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ソ連軍の第1波が上陸を開始した。第342自動車化狙撃兵師団は稚内からオホーツク海岸の浜頓別、枝幸付近に上陸し、海軍陸戦隊は北方領土を発して斜里と根室に上陸した。
紋別ではソ連第342師団の第1146連隊と空中機動旅団が、SDF第2師団25CTを包囲し、これを殲滅した。しかし名寄ではSDF第2師団の精鋭3CTがソ連軍の攻撃を撃退した。

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注:ソ連の空挺部隊は音威子府の隣接Hexにしか降下できないので、紋別付近への空挺部隊投入はルール違反である。

SDFは名寄を放棄し、旭川に第2師団を集結させる。

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2Turn

天候は荒天。これによりソ連軍の増援が1Turn遅れる。悪天はソ連軍にとっては痛い。
ソ連軍はSDF第11師団を活性化させないように旭川盆地の北端まで出て止まっている。

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注:SDFの各師団は、麾下の師団のいずれかのユニットの4Hex以内にソ連軍ユニットが侵入しない限り、移動できない

SDFは旭川~深川の線で防衛ラインを組む。

3Turn

Z_Weather天候は曇天。SDFには増援部隊が到着する。小松駐在第6航空団の第205飛行隊と築城基地の第8航空団第207飛行隊だ。いずれもF-15Jイーグルを装備している。
しかし航空戦はソ連軍のダイスが冴えわたり、最初の交戦でSDFの戦闘機4ステップを失ってしまう。ソ連軍の損害は2ステップのみ。SDFは損害を回避するために引き上げたので、ソ連側が制空権を確保した。

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制空権を握ったソ連軍は空中機動によって旭川を守るSDF第2師団を包囲した。ソ連第342師団がSDF第2師団を攻撃するも、SDF師団はギリギリで生き残った。

SDFは新たに活性化した第11師団を中心に留萌~日高山脈のラインで防衛ラインを組む。

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4Turn

JP_2_3CT_555天候は晴天。両軍の戦闘機が激しい制空戦闘を繰り広げた。SDFの損害は5ステップ、ソ連空軍はその2倍にあたる10ステップを失う。そしてSDFは遂に制空権を確保した。

ソ連軍は旭川を守備していたSDF第2師団を遂に壊滅に追い込んだ。SDFの残存部隊は、岩見沢~夕張のライン迄後退する。

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つづく



コマンドマガジン Vol.181『北海道侵攻』 コマンドマガジン Vol.177『ヴュルツブルク』
幻の東部戦線 ソ連・ロシア軍 装甲戦闘車両クロニクル 提督が解説する海上自衛隊艦隊と軍艦のすべて 2024年 09 月号 [雑誌]: 軍事研究 別冊 海上自衛隊 護衛艦メカニズム図鑑 イカロスMOOK

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コマンドマガジン Vol.181『北海道侵攻』 「北海道侵攻」は、1995年にソ連軍が北海道に侵攻した状況を再現する仮想戦ゲームです。 このゲームは元々翔企画がSSゲームの1つとして1988年に発売した作品で、今回のゲームはそのリメイク版です。 メインテーマは北海道での地上戦で、1Hex=30km、1Turn=1日、1ユニット=連隊~旅団規模です。また航空機ユニットも登場し、1ユニット=1個スコードロンレベルで北海道上空の航空戦を含めて再現します。 今回は「北海道侵攻」のコンポーネントとプレイ風景を紹介する動画を作成しました。



コマンドマガジン Vol.181『北海道侵攻』 コマンドマガジン Vol.177『ヴュルツブルク』
幻の東部戦線 ソ連・ロシア軍 装甲戦闘車両クロニクル 提督が解説する海上自衛隊艦隊と軍艦のすべて 2024年 09 月号 [雑誌]: 軍事研究 別冊 海上自衛隊 護衛艦メカニズム図鑑 イカロスMOOK

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「NATO師団長」というタイトルのこのゲームは、師団長の活動を詳細に再現したSLGだ。基本的は大隊規模の作戦戦術級ゲームだが、そこにスタッフ管理や情報、部隊運用等に関する詳細なルールが加わることで、まさに「師団長ロールプレイングゲーム」とも言うべき難解なゲームとなっている。

今回プレイしたシナリオは、シナリオ30.0「ジーゲンハイン攻囲戦」である。ソ連軍がフルダ峡谷西方のジーゲンハインに空挺降下作戦を実施し、それを米第8機械化歩兵師団が撃破に向かうというシナリオだ。さらに今回はコントローラーを使用したダブルブラインド方式でプレイしてみた。専門のコントローラーが両軍の状況を見て必要な情報をプレイヤーに提示するという、まさに図上演習を地で行くようなプレイスタイルだ。

今回、筆者は米軍を担当した。

前回までの展開-->こちら

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2Turn

攻略目標であるジーゲンハイン要塞付近に航空偵察を行い、ソ連軍の布陣を確認した。予想通りソ連軍は降下してきた2個空挺連隊のうち、1個連隊をジーゲンハイン要塞の守備に回していた。米軍は麾下の3個旅団のうち、1個旅団をマップ北端の警戒のために展開し、残り2個旅団をジーゲンハイン要塞に向けた。
下の写真は第2Turnの米軍Turn終了時点での米軍マップ状況である。ソ連軍についての情報はコントローラーが与える索敵情報に基づいている。ソ連軍のマップには、実際のユニットが配置されていることだろう。

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3Turn

夜になった。米軍部隊は休息をとるべく活動を停止する。しかしそのような米軍部隊に対してソ連軍の砲火が降り注ぐ。「空挺部隊のくせに、なんでそんなに砲撃支援があるんだよ?」と思いたくなるような猛砲撃だ。お蔭で米軍部隊の約半数が安眠妨害されて疲労レベルを回復させることができなかった。幸いなことに、ジーゲンハイン城塞への主攻撃を担当する米戦車大隊は砲撃を免れていたため、安眠を妨げられることはなく、翌朝気分よく目覚めることができた。

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4Turn

このTurn、ソ連軍第11親衛戦車師団が盤外から登場してくる。米軍としては何としても彼らが戦場に辿り着く前にジーゲンハインを占領し、守りを固めておきたい。これまでの経験でこのゲーム、攻撃側に厳しく防御側に優しい。一旦米軍の機械化歩兵大隊がジーケンハインの城塞を占拠し、そこに布陣すれば、いかに強力なソ連戦車部隊と雖も、それを奪回するのは容易ではないだろう。

攻撃に先立ち、敵戦線背後に進出していた米機械化歩兵大隊が後方のソ連軍司令部を襲撃する。空挺師団司令部を蹂躙した機械化歩兵旅団は、他の部隊と共同でジーケンハインを守るソ連空挺部隊を孤立化させた。これでお膳立ては整った。

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ジーケンハイン前面に布陣した米軍部隊がジーケンハインの城塞に猛攻撃を加える。後方を遮断されたソ連軍空挺部隊は、友軍の支援を欠いた状態で、それでも孤軍奮闘する。中世の城塞を利用したジーケンハインの守りは固く、最初の米戦車大隊による攻撃はソ連空挺部隊に大損害を強いたものの、城塞そのものを奪取するには至らなかった。

しかし勇敢なソ連空挺部隊による抵抗もここまでだった。引き続いて攻撃してきた米機械化歩兵大隊の攻撃よりさしもの空挺部隊も壊滅。ジーケンハインの城塞は米軍の手中に帰した。

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「よし、これで勝った」
米軍プレイヤー(つまり筆者)は安堵した。しかしこれが誤りであったことはすぐに判明する。ソ連軍第11親衛戦車師団による猛反撃が始まったのだ。ソ連軍戦車は行軍隊形をとってマップに進入してくる。行軍隊形というのは移動力40になるという本作では最も移動力の大きい隊形である。ただし行軍隊形の場合、相手に攻撃されたら不利な修正が適用されるので、正直筆者はそれほど恐れていなかった。

が、それが間違いであった。

ソ連軍戦車部隊は、40という大移動力を利用し、マップの両端を大きく迂回してきた。道路上から敵がやってくるものと予想していた米軍は完全に虚を突かれた。ソ連軍戦車は米軍部隊のいない間隙を縫いつつ、米軍の後方に一目散に殺到する。そこには無防備な米軍司令部部隊が壱集していたのだ。まず第2旅団司令部がソ連戦車の蹂躙を受けて撃破される。さらに第1旅団司令部もまたソ連戦車の餌食となった。いくら行軍隊形とはいえ、司令部から見れば戦車は強敵だ。対抗できる相手ではない。しかも移動力40である。アウトバーンを使えばマップの端から端まで往復できそうな移動力なので、生半可な防御スクリーンでは止める術はない。他の陸戦ゲームの如く端から端まで戦線を張るか、あるいは司令部を一か所に集めてその周りを友軍部隊で守るしかない。とはいえ前者を行うようなユニット数は元より存在せず、後者についても護衛ユニットの不足や逆に1ヶ所に集まることの不利を考えると、とても採用できない。第一、そんなことをしたらこちらの攻撃戦力を捻出できなくなり、とても攻勢実施になんて覚束ないではないか・・・。

こうして呆然とする筆者の目の前で2個旅団の司令部が瞬く間に蹂躙され、このゲームでの米軍の勝利も消えた。

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感想

まずは今回のプレイをコントロールして頂いた2人のコントローラーに感謝します。プレイヤーが心地よくプレイできるように様々な準備をして頂き、しかもプレイ中は膨大な作業をこなしていただいたコントローラーの方々には本当に感謝したい。

といいつつゲームの話になると、やはり古いゲームということもあり、手放しでは評価できない部分があったのもまた事実だ。細かい点は書かないが、作戦情報レベルの扱いやソ連軍の行軍隊形攻撃などは見直す余地があると思う(後者については、それこそソ連軍らしい縦深攻撃だ、という意見もあるかもしれない)。

システム的にもスタッフの扱いが細かすぎてもう少しシンプルにできないかと思う部分もあった。その一方で実際の戦闘場面はシンプルで、NAWシステムかと思うほどシンプル。このあたり、あえてミリオタする部分を軽く扱ってミリオタを嘲笑するような所が実にSPI的とは思うが、セールス的にはあまり受けないだろう。その点でいえば、本作と同様に司令部の能力を重視した作品であるAir & Armorの方が、上手くデザインしていると思える(後発なので当然ではあるが)。

情報処理システムについても自身の航空偵察や通信能力を作戦情報レベルの上昇とセクター索敵に分割するというルールがあるのだが、これも何を表現しているのか今一つピンと来ない。時間の経過と共に戦っている敵の正体が判明してくるということを表現したいのかもしれないが、直線的に情報量が増加するというのは変に感じる部分だ。

全体的なバランスについても疑問がある。ユニット数に比して戦線が広すぎて戦線を張り切れないのだ。また司令部の重要性に比して防御力が低すぎて、「ゲーム的に」戦うのなら大移動力を利用して敵戦線後方を狙い、司令部を潰した方が勝ち、という展開になりがちである。これはプレイヤーの技量の問題もあるかもしれないが、ゲームとしてアンバランスな感は否めない。

とまあこんな感じで、このゲーム、単純にゲームとして評価すると決して「不朽の名作」として手放しに評価できるものではない。むしろ欠点が目につき、ゲームとしては「欠陥品」と評して良いかもしれない。
とはい指揮統制に重点をおいてここまで詳細にデザインしたゲームは他にはなく、ある意味で究極のウォーゲームの一形態と言うこともできる。今では入手困難な作品であり、プレイする機会も少ないとは思うが、もし機会があれば是非プレイしてみて欲しい。筆者自身も機会があれば再戦したいと思っている。

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NATO Designer Signature Edition The Fulda Gap
機動の理論 The Art of Maneuver: Maneuver Warfare Theory and Airland Battle ソ連・ロシア軍 装甲戦闘車両クロニクル 幻の東部戦線

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Game Journal 90-モントゴメリーの憂鬱、孤高のアルンヘム
GJ90「モントゴメリーの憂鬱-孤高のアルンヘム」は、2024年に発売されたGame Journal90号の付録ゲームです。テーマはマーケットガーデン作戦で、同作戦を1ユニット=大隊~連隊の規模で再現します。Turnの概念はなく、マップはエリアで区切られています。

このゲームの本作の特徴は何といってもソロプレイゲームであることです。プレイヤーは連合軍の立場となり、ゲームシステムが操るドイツ軍と戦います。プレイヤー側の勝利条件は、マーケットガーデン作戦を成功させることです。

以前の動画でもプレイ風景を紹介しましたが、今度は何とかアルンヘム攻略を達成して勝利すべく、再度チャレンジしてみました。





Game Journal 90-モントゴメリーの憂鬱、孤高のアルンヘム Game Journal 93-パンツァーカイル Game Journal 92-孤高の曹操 Game Journal 91-クロニクル・オブ・ジャパン
遠すぎた橋 西部戦線 (歴史群像アーカイブVol.17) ドイツ重戦車 戦場写真集 パンタ-vsシャ-マン: バルジの戦い194

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かつてWargameを都会のおもちゃ屋さんで普通に購入できた時代があった。今から約40年前の1980年代のことである。大阪市の中心地にある阪急梅田駅は当時から現在と同じ場所にあったが、その梅田駅のガード下にある阪急三番街、その中にある「キディランド」というおもちゃ屋さんには、当時店頭に姿を見せ始めた国産のウォーゲームに混じって、AvalonHillやSPI、さらには魅惑的な箱絵であったヤキント社のゲームもずらりと並んでいたものである。「キディランド」は、京阪地区中高生ミリオタ達(当時ミリオタという言葉は勿論ない)にとって憧れの場所であったと思う。

店の中でとりわけ高級感の漂う一連のゲームがあった。いわゆるデカ箱と呼ばれているSPI社の高級ゲーム群である。Next War、NATO DIvision Commander、Operation Typhoon、Atlantic Wall等。当時でも1万円以上の価格であったこれらゲーム群は中高生の小遣いで手の届く代物ではなく、何か神秘的な雰囲気を醸し出していた。

あれから数十年。遂にその中の1作を実際にプレイする機会を得た。NATO Division Commander。ゲーム界の重鎮ジェームズ、ダニガンがデザインした現在戦ゲームで、西ドイツ中央部における米ソの対決を作戦戦術レベルで再現している。1Turnは8時間、1Hexは0.5マイル(約800m)に相当し、1ユニットは1個大隊を示している。

「NATO師団長」というタイトルのこのゲームは、タイトル通り師団長の活動を詳細に再現したSLGだ。基本的な部分だけを見ると、本作は大隊規模の作戦戦術級ゲームで、ZOCあり、ZOCからの離脱は原則禁止、移動中に攻撃実施、移動終了後のスタック禁止といったものだ。戦闘解決も1駒対1駒の戦力差方式。砲兵や航空機等もユニット化されておらず、全てポイント制である。基本システムだけを抜き出してみれば、作戦級ゲームとしてはシンプルな部類に入るかもしれない。「あの」SPIのゲームということで、超絶細かいシステムを予想していた筆者にしてみると、意外なほどシンプルなものであった。

が、しかし・・・

本作の「凄み」はそこではなかった。本作は移動、戦闘といった部分ではなく、その管理部分に焦点を当てたデザイン手法を採用していたのである。M60A3とT-72が撃ち合う場面を詳細に再現するのではなく、そのM60A3戦車大隊を実際に戦場に送り込み、敵と戦わせるために必要な管理活動を、これでもか、これでもか、というほど詳しく紹介しているのだ。
本作の中核を成すシステムがスタッフポイントである。これこそが師団長の管理能力そのものを示す数値で、特に重要なのが部隊の隊形変換。各ユニットは移動隊形や戦闘隊形など計13種類の隊形が用意されている。隊形によってユニットの移動力や戦闘力は大きく変わってくるが、例えば行軍隊形から攻撃隊形に変更するだけで多大なスタッフポイントを必要とする。スタッフポイントの総量は絶対的に不足していて、ユニットを常に適切な隊形に変更するに十分な量は全くない。だからプレイヤーは重点に絞って隊形変更するか、スタッフに過重労働を強いてスタッフポイントを捻出するか、あるいは各部隊の自主性に期待してダイスチェックに賭けるか・・・。なんにせよ、師団の運営という「事業」がいかに困難な事であるかをシステムを通じて再体験できるようになっている。さらにいえば、司令部自体もマップ上に置かれているので、司令部自体が砲爆撃や敵ユニットによる攻撃目標になりうる。敵の攻撃で司令部が潰されれば、スタッフの死傷その他によってタダでさえ少ないスタッフポイントが悲惨な事に・・・

情報戦に関するルールの詳細さも本作の特徴だ。盤上に敵ユニットが存在するとわかっていても、そこに砲爆撃を加えるためには索敵を行う必要がある。ここまで行くとまるで空母戦ゲームだが、極めつけはコントローラーゲーム。これは審判を導入したダブルブラインド方式で、偵察しなければ敵情は全く不明である。プレイヤーは偵察機を飛ばして敵を発見する必要があり、あとは自軍ユニットに隣接するヘクスしか見えない。ここまで来ると完全な空母戦ゲームだが、これはどちらかといえば教育用のルールで、実際の軍隊で使用することを想定しているように思う(第一、この方式だとコントローラーは超絶つまらない)。

隊形や疲労について詳しいルールがあるのも本作の特徴で、移動や隊形変更を行ったユニットは疲労レベルが上昇し、疲労を回復させるためには休息をとる必要がある。さらに敵の砲爆撃を受けたユニットは休息できない場合があるので、夜間の「嫌がらせ砲爆撃」が実際に効果を発揮することになる。

他にも電子戦や化学兵器、核兵器のルールもあり、複雑な現代戦の様相を余すところなく再現する。極めつけは師団長個人に関するルールで、これを導入すると師団長が戦況報告を聞かない限り、友軍が発見した敵の情報が師団長に届かないという事態も起こり得る。師団長による前線指揮、師団長の疲労、師団長の死傷などもルール化されているので、ここまで来るとまさに師団長ロールプレイゲームだ。師団長だけではなく師団の副官たちや麾下の旅団長、さらには大隊長の能力もレーティングされており、ここまで来たらもう立派な「師団長ロールプレイングゲーム」だ。面白いかどうかは別として・・・。

シナリオ

今回プレイしたシナリオは、シナリオ30.0「ジーゲンハイン攻囲戦」である。ソ連軍がフルダ峡谷西方のジーゲンハインに空挺降下作戦を実施し、それを米第8機械化歩兵師団が撃破に向かうというシナリオである。勝利条件は、ソ連空挺部隊が占拠するジーゲンハイン城塞の占領で、ゲーム終了時点でジーゲンハイン城塞ヘクスを占拠している側のプレイヤーが勝利する。
ゲームの長さは9Turn、つまり実際の3日間に相当する。第4Turnにソ連軍第11親衛戦車師団がマップ東端から登場するので、米軍としてはそれまでにジーゲンハイン城塞を奪取しておきたい。それに成功すれば、勝利にぐっと近づくだろう。

今回のプレイでは、コントローラーを使用したダブルブラインド方式でプレイしてみた。これは米ソそれぞれに専門のプレイヤーを配し、専門のコントローラーが両軍の状況を見て必要な情報をプレイヤーに提示する、というものである。まさに図上演習を地で行くようなプレイスタイルだ。今回、筆者は米軍を担当した。

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1Turn

このシナリオは、予めマップ上に配置されているソ連軍空挺部隊に対し、マップ西端から進入する米軍機械化師団が攻撃を仕掛けるという展開になる。通常の陸戦ゲームみたいにガッチリ前線を張るだけのユニットはもとよりないので、主要な交差点だけを押さえた拠点防御するような展開になるだろう。

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第1Turnの米軍は、ソ連側防衛ラインの弱点を探しつつ、それを拘束しながら主目標であるジーゲンハイン城塞を目指す。前線の2ヶ所でソ連軍空挺部隊との接触報告があった。索敵機動隊形の米戦車大隊がソ連軍空挺部隊を攻撃したが、ソ連空挺部隊の待ち伏せ攻撃を受けて2ステップを失う。戦車と空挺部隊との交戦と雖も、隊形が不整形、支援不十分な状態での攻撃は効果がないことを改めて教えられた。

そこで前線でソ連軍と接触した部隊は、ソ連軍部隊を拘束しつつその後方に回り込むことにした。このゲーム、指揮統制の部分はかなりモダンなシステムを採用しながらも、基本となる移動・戦闘の部分は妙にクラッシックである。NAWシステムよろしく一旦ZOCに拘束されたユニットは、原則としてZOCから離脱できないのだ。

写真02


つづく



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