The Battle for Germany(以下、本作)は、2021年に米国Compass Gamesが発表したシミュレーションゲームだ。テーマは1985年8月を想定した西ドイツにおけるワルシャワ条約機構(WP)軍とNATO軍の対決。1Turnは実際の1日、1Hexは12kmに相当し、1ユニットは連隊~師団規模になる。 本作の基本システムは、 以前の記事 で紹介したので、そちらを参照されたい。
今回は、その中からシナリオ4「The Battle for CENTAG」をソロプレイしてみた。このシナリオは北部戦域を除いたドイツ中南部での戦いを描いたシナリオである。キャンペーンシナリオほどではないが、それでもフルマップ2枚相当のかなり大規模なシナリオである。個人的には実質的にプレイなのはこの程度のシナリオまでかな、とも思っている。
前回までの展開は --> こちら
感想
戦略的な感想
今回はNATO側の圧勝となったが、これは必ずしも本シナリオのバランスが悪いことを意味する訳ではない。これまでの文章を読んで薄々感じられたとは思うが、今回のプレイで私はかなりNATO側に肩入れしたプレイをしている。従ってどうしてもNATO側に有利な結果になりやすいことは否めない。だから今回の結果は、「こういう結果になる可能性もある」という程度に思っていただければ幸いである。私自身、今後対人戦で本作をプレイすることがあったとして、もしWP側を担当する際には、今回の記事内容とは異なりWP軍がライン川を突破してNATO戦線を崩壊させるつもりでプレイするだろう。そしてそれが可能だと思っている。プレイ回数が僅か1回なので戦略云々するのは難しいが、勝利条件その他から見えてくるシナリオ4の戦略について検討してみたい。
勝利条件を検討すると、VPによって決まる。VPは様々な理由によって増減するが、基本的には目標マーカーと呼ばれるマーカーを多く取得することが勝利への近道である。シナリオ4でマップ上に配置されている目標マーカーは計6個。従ってお互いに目標マーカーを4個以上獲得することが当面の目標になる。
目標マーカーの獲得方法に注意したい。WP側は一度でもそのヘクスに入れば目標マーカーを獲得でき(奪い返されることはない)、NATOは守り切れば最後に目標マーカーを獲得できる。従ってWP側はとにかく目標ヘクスに到達することが重要で、NATOは前線でWP軍を止める必要がある。
下図は目標マーカーの配置図である。下図を見てわかるが、WP軍にとって目標マーカーは相当遠い目標であり、地上部隊の進撃だけでこれらを奪取するのは容易ではない。狙い目は第1Turnで、コブレンツ(下図の一番左上)とルートウィヒスハーフェン(下図の上から3番目)以外は無防備である。従って序盤に空挺部隊と特殊部隊を投入し、目標ヘクスを奪取するのがWP側の基本戦略と思われる。付け加えると、フランクフルトとシュタットガルトには、それぞれ米第5軍団、第7軍団の司令部が位置しているので、開戦奇襲でこれらを後退させるとWP側にとっては一石二鳥だ。
今回のプレイでは、目標ヘクスではなくPOMCUSを優先して狙ったが、結果的には失敗だった。
空挺部隊と特殊部隊が首尾よく目的を達すると、WP側は極端な話「現状のまま」でも勝てる可能性が出てくる。ただしVPは変動要因が多いので、現実的には「そのまま」という訳にはいかない。残った2個の目標ヘクスを奪取すべく、西ドイツ領内に侵攻することになる。目指すはライン川突破だが、その過程でNATO軍を撃破し、VPを稼ぐことになる。化学兵器や核兵器の使用は状況次第である。得点的に逃げ切り可能な状況であれば(目標マーカーの最大値は5VPで、半数以上が1VPであることは覚えておいて良い)、これらの大量破壊兵器を使用して相手にVPを与えるのはあまり得策とは言えない。下図にWP側の想定突破コース案を示す。
対するNATO軍は制空権の確保が鍵になる。最終的に制空戦闘で勝利を収めるのはNATO側であるが、NATO側は可能な限り速やかに制空権を確保したい。今回のプレイでもそうだったが、制空権を確保できればWP側の進撃はほぼストップさせることができる。さらに制空権を確保することで毎Turn1VPずつ獲得できる。逆に言えば、WP側としてはNATOが制空権を確保するまでにVP的に安全圏へ逃げ切りを図りたい。
NATO側の防御戦術は、できるだけ共同戦闘になるように部隊を配置する。また河川効果を最大限に生かして、WP側の突破正面を絞り込む。
ちなみに目標マーカーは計19個で。その内訳は、1VPが10個、3VPが6個、5VPが3個である。 /
ルール上の注意点
このゲームはシステムがユニークであり、特に戦闘システムがかなり特殊である。ルールを読んだだけではわかりにくいが、間違えやすいポイントをいくつか触れておく。・ルール7.7.4.1にはアッサリ書かれているが、戦闘ヘクスに隣接するユニットは攻撃側・防御側の双方とも戦闘に参加(in the combat)できる(ただし攻撃側が路上行軍隊形の場合は攻撃側は同一ヘクスのみ参加可)。ここで特徴的なのは「防御側のユニットも隣接ヘクスから参加可能」という部分である。このルールによって他のゲームとはやや趣の異なる状況が生まれてくる。
・一つは防御側が戦闘に敗北した場合、防御ヘクス以外のユニットに損害を適用することで防御ヘクスを守ることができる。一例をあげよう。下図の状況を見て頂きたい。この状況でマップ中央の西ドイツ軍第12装甲師団所属第34装甲擲弾兵連隊(34Pg/12PxD)が隣接するソ連軍ユニットに攻撃を受けた場合を想定しよう。この場合、NATO軍は西ドイツ軍に隣接する米軍部隊(CDR/3IDと3/3ID)を戦闘に参加させることができる。そして戦闘の結果、NATOにとって不幸にして敗北に終わった場合、NATO軍は隣接する米軍部隊を後退させる(1ヘクス後退する毎に戦闘結果1を吸収できる)ことによって損害を吸収できる。その結果、西ドイツ軍は目標ヘクスに居残ることになってソ連軍の突破が阻止される。もっと極端な例では、NATO側の弱体なVKKユニット(民兵部隊)を後退させることで正規軍は無傷のまま残ることもできる。このルール、お互いに理解していれば何の問題もないが、WP側プレイヤーが理解していないと激怒すること請け合いである。対人戦ではお互いに不幸な結果にならないように事前にルールをしっかり確認しておいた方が良い。
・なお、防御側ユニットが戦闘に参加した場合、「使用済」(Spend)状態になるというルールがあるのだが(ルール7.7.6)、この時「使用済」になるのは、戦闘に参加した全ユニットであることに注意したい。
https://boardgamegeek.com/thread/2681150/article/37961107#37961107
・地形効果で特徴的なのは、河川越えに関するルール。対岸ヘクスが敵ZOCの場合、通常移動による進入は禁止されている。例えば下図のケースでは、WP側は米軍のZOCに阻まれてMain川、Tauber川を通常移動で超えることはできない。これらの川を超えるためには、河川越えの戦闘を仕掛けて米軍部隊を後退させるか、あるいは工兵支援(ルール16.4.2)を使うしかない。
https://boardgamegeek.com/thread/2658154/article/38282802#38282802
プレイする上での注意点
1) 戦闘を有利にするためには、できるだけ多くのユニットと共同で戦うことが重要である。このゲーム、単独のユニットは極めて脆く、最大ヒットを食らうと生き残ることは極めて難しい。しかし2ユニット以上が共同で戦うと、生き残りは格段に容易になる。例えば3ユニットが共同で戦った場合、仮に敗北して5ヒット(通常戦闘で適用される最大のヒット数)を食らった場合、全ユニットが1ヘクスずつ退却し、あとは歩兵2ステップを失うだけで良い。1ヘクスだけの後退ならばユニットが混乱することもない。
あるいは3ユニット中2ユニットを2~3ヘクス後退させて損害を吸収する手もある。この場合、後退したユニットは混乱を強いられるが、1ユニットが残っているため敵側も戦闘後前進や突破移動ができなくなる。
2) NATOはCadreを大事にしよう。Cadreが撃破されたらすぐにルール12.2.2に従って再配置すること。そのために必要な補充ポイントを温存しておく。Cadreがないと残余の部隊は全部OOCになる。
3) NATOは航空戦でSAM制圧を積極的に行うべきである。SAM制圧は他の任務を有利にするだけではなく、SAMを回復させるためには多くのSPを必要とするため、結果的にWP側の行動を大きく制約する。さらにSAM制圧任務は他任務に比べて相手側SAMに食われる可能性が小さいことも忘れてはならない。
4)忘れやすいルールとして、防御型指揮官(Defensive Leader)(14.4項)のメリットがある。防御型指揮官は一見するとメリットが殆どないようにも思えるが、砲兵修正のDRM-1と勝利得点を2点まで犠牲にして損害を軽減できるルールは有効である。特に前者は砲兵支援値の低いNATO側にとって、福音とも呼べる存在になっている。
最後にまとめに入る。DommsDay Projectは他のゲームとはかなり異なるルールを採用している。普通にプレイしていても迷うことが多く、河川効果やVKKに関するルール等は初めてプレイする際には悩むことになるだろう。正直な所、ルールブックを読んだだけでは正しくプレイするのは相当困難であり、Board Game Geek等の情報を読み込む必要があるだろう。対人戦の場合も事前のルール確認が不可欠だ。
しかしルールを正しく理解すると、これほど面白いゲームも珍しいかもしれない。冷戦時代の西ドイツを扱ったゲームは数々あれど、本作はプレイ可能な範囲で様々な要素を詰め込んだ「お得感溢れる」作品である。個人的には航空機が機種名入りで入っていたらそれだけで評価が2ランクぐらい上がるのだが、本作は航空機だけではなく、MBTやIFV/APCまで具体的な装備名が記載されていて嬉しい。だから「ここは最新鋭のレオパルド2を投入しよう」とか「ブラッドレーは良いなぁ」とか「うわー、T-80だ。厄介だなぁ」という楽しみもある。
確かにルールは多く手間はかかるが、決してプレイ不可能ではなく、慣れればシナリオ4ぐらいなら2~3日ぐらいのプレイで概ね決着がつく所までプレイできるはずだ。
私自身、次はフルキャンペーンにチャレンジしてみたい。
The Fulda Gap The Battle for the Balkans NATO Designer Signature Edition The Third World War, Designer Signature Edition Blue Water Navy Next War Poland Game Journal 81-米中激突:現代海戦台湾海峡編 コマンドマガジン Vol.177『ヴュルツブルク』