もりつちの徒然なるままに

ウォーゲームの話や旅の話、山登り、B級グルメなどの記事を書いていきます。 自作のウォーゲームも取り扱っています。

タグ:読書

イメージ 1

リトルピープルの時代

宇野常廣 幻冬舎

この本の内容を一言で説明するのは難しい。ボリュームが多いということもあるが、私にとっては余り馴染みのない文化論的な話が中心だからだ。しかしこの本が「面白くない」訳ではない。非常に「面白かった」。
本書のテーマはいくつもあるが、1つのテーマとしては「ビックブラザー」から「リトルピープル」の時代へという点が挙げられる。「ビックブラザー」とはジョージ・オーウェルの小説「1984」に登場する架空の独裁者のことである。本書では個人と対比して国民国家等の権力機構を挙げている。それに対して「リトルピープル」とは、村上春樹の小説「1Q84」に登場する言葉で、本書の中では自立した個々人(本書では「父親」という表現を用いている)の事を指す。そして本書の中で最初に語られるのは、「ビックブラザー」が壊死しそれに代わって「リトルピープル」達の時代が訪れたということである。本書はそのことを示すために村上春樹の小説、ウルトラマン、仮面ライダー、ロボットアニメ、AKB48等を取り上げ、それらの作品が「リトルピープル」の時代に合わせてどのように変化していったのか、さらにはそれらの作品群に見る先進性や限界(特に村上春樹の諸作品に対しては手厳しい)について筆者なりの論評が加えられている。
「リトルピープル」時代の到来は、主役の交代を意味していた。それは疑似人格的な物語(国民国家)から非人格的な非物語(貨幣と情報ネットワーク)への変化である。そしてネットワーク社会の実現は日本国民が近代的な責任主体としての自覚を持つ市民社会への成熟への期待をもたらしたが、現実はそれを裏切った。日本におけるインターネットは、公共的な討議の空間として成熟することはなく、「2ちゃんねる」に代表されるように匿名的かつ日本的/ムラ社会的な共同性の確認の場所として定着した。

本書で興味深い点はいくつもあるのだが、筆者が特に面白かった点を紹介したい。
まずウルトラシリーズと当時の国際情勢を比較するくだりだ。(特に昭和の)ウルトラシリーズで描かれているスタイルは、侵略者としての怪獣/宇宙人と、それに対抗するひ弱な防衛組織、そしてそれを助けるウルトラマンたちだ。筆者は科特隊などの防衛チームを「自衛隊」、怪獣/宇宙人を「旧ソ連軍」、そしてウルトラマンたちを「米国」とした(ウルトラセブン=第7艦隊というのは見事な符号である)。それはそのまま当時の世界観、当時の正義感の現れと言って良い(政治的に左寄りの人は、怪獣/宇宙人を機動隊、防衛チームを学生運動、ウルトラマンをソヴィエト又は中国共産党と読み替えても良い。向きが違うだけで言っていることは同じだ)。この単純なイメージが明らかに成立しなくなってくるのが(ビックブラザーの壊死)、帰ってきたウルトラマン~レオまでの後期作品群で、そういえばウルトラマンタロウ等では、怪獣を殺処分せずに「生かして返す」パターンが増えてくる。これなどはまさに「ビックブラザー」が壊死し、従来の価値観が崩壊し始めた時代の現れと見ることもできる。
もう1点。これはティム・オブライエンの小説「世界のすべての7月」から抜粋したエピソードである(筆者はこの小説を読んでいないので間違いがあるかもしれないがご容赦頂きたい)。容姿に恵まれず卑屈な学生生活を送っていた女子大学生ジャンが、反戦運動に参加することによってはじめて他者からの承認欲求を満たし、そして出会いに満ちた人生を送ることができた。彼女は思った。「殺戮のおかげで私の人生は溌剌としたものになった。ナパームが私を幸せにしてくれた。戦争がいつまでも終わらなければ良いのに。」

本書の中でもう1つ語られていることがある。それは仮想現実から拡張現実へと時代が変化したということだ。わかりやすく言えば、「ガンダム」から「パトレイバー」又は「エヴァンゲリオン」へ進化したということである。かつての我々はユートピアを仮想世界に求め、様々な手段でそれを表現してきた(一時期流行った「架空戦記」もその表れかもしれない)。しかし仮想世界にユートピアはなく、「世界の終わり」や「世界を変えてくれる革命」は最早過去の夢となった。現代の我々は仮想現実ではなく、拡張現実、すなわち現実をより深化させていく方向に舵を切っていくべきであり、またそうなってきる。このことは、ウォーゲーマーである我々も既に感じていることだ。そう。我々が電脳ゲームからVASSALの世界、すなわち仮想現実から拡張現実の世界に進んできたように・・・・。

お奨め度★★★★

イメージ 1

とらべる英会話

読売新聞社編 研究社

海外旅行に不自由なくいけるようにトラベル英会話をマスターしようと思って購入したが、やや期待外れだった。本書で取り上げている場面は「やや特殊な」ケースが多く、海外初心者の私としては、「もっと基本的な所を教えてくれ~」と言いたくなる。
とはいえ、アマゾンでの書評は結構高いから、読む人によっては役に立つのかな?

お奨め度★★

イメージ 1

新台湾時刻表2019年1月

日本鉄道研究団体連合会

台湾鉄道の時刻表だが、日本の時刻表と同じ様式で記載されている。それもそのはず。本書は日本の有志が製造した同人誌である。同人誌とはいえ時刻表としては十分に正確な内容(だと思う)で、鉄道旅行には重宝する筈だ。コンパクトな1冊なので、台湾旅行の友としては最適である。

お奨め度★★★

イメージ 1

白き嶺の男

谷甲州 ヤマケイ文庫

単独行で有名な登山家、加藤文太郎。本書はその加藤をイメージし、現在に蘇らせたフィクション作品である。本書で登場する加藤武郎という登山家は、筆者がイメージする加藤文太郎そのものだ。その彼が冬の八ヶ岳、北アルプス、さらにはヒマラヤの山々で様々なアクシデントに遭遇しながらも山と闘う物語だ。本書は6つの短編からなり、それぞれが小気味よく読みやすい。山岳小説としてその面白さは格別のものだ。

お奨め度★★★

イメージ 1

丸2019年5月

光人新社

特集はアイオワ級戦艦。海軍史上一番最後まで現役にあった戦艦たちだ。アイオワといえば、必ず「大和vsアイオワ、もし戦えば」的な仮想戦記的記事が掲載され、それぞれの立場から「大和有利」「アイオワ有利」といった論争に発展する場合が多い。しかし本書ではそのような記事はなく、あくまでも淡々とアイオワ級のメカニズムや戦闘システム、戦歴などを紹介するにとどめている。そういったアプローチもまたありだろう。
他にはINF全廃条約破棄後の米露の核戦略、海底で見つかった戦艦「比叡」、空母「ホーネット」の残骸等の記事が興味深かった。

お奨め度★★★

↑このページのトップヘ